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暗く明るく青い世界が静かに広がり、本当に水の中へ潜ったような錯覚を覚える。

先程のテンションはどこへいったのか。

女性は静かに大人びた表情で水の中・・・水槽を見つめていた。

実際に大人なのでその表現が合っているのかは彼には分からない。

しかし、いつもは子供のようにはしゃぎ元気が友達みたいな姿の女性しか見たことがなかった彼には新鮮だった。

入ってすぐの水中トンネルを模した水槽を歩けば、大小様々な魚が二人を出迎えた。

左右を交互に見ていれば、上にも優雅に泳ぐ魚が姿を現して彼の心が想像以上に弾む。

トンネルを抜ければクラゲが優雅にゆったりと舞い、更に進めばペンギンが押しくらまんじゅうをして立っている。

熱帯エリアでは魚だけでなく、鳥や猿が退屈そうに座っていた。

その下では、小さい熱帯魚達がシチュエーションを変えて紹介されている。


楽しい。


純粋な感想だった。

彼は最初は魚を見るだけで何が楽しいのかと思っていた。

しかし、命が動き生態を知り、その場に居合わせる。

同じシチュエーションは二度と来ない。

奇跡のような時間だと思った。


再び、暗く青い世界が広がった時、サメやいるか、大きな魚が優雅にしかし機敏に動き、彼の何かを突き動かした。

描きたいと無意識に思った。

鞄からノートを取り出し、ペンを紙の上に置いた。

しかし、その後がどうしても動かすことが出来ない。

描きたいと思っているのに。

ペンを握る手が強くなる。

そのとき、ふっとノートに影が出来た。

「慌てなくていいよ」

女性は行こうと彼を手招きした。

「描きたいと思っているなら描けるようになるよ」


だから今は楽しもう!


笑顔で女性は少し早歩きで次の水槽へ向かった。

その姿が先程見ていた小さな魚のようで、彼は思わずふっと笑ってしまった。

肩の力が一気に抜けたような、ほっとしたような感覚が彼の中で静かに満ちた。


彼はノートを鞄にしまうと、女性の後を追いかけた。

気のせいだろうか。

先程より水槽の中はきらきらが増し、輝いて見えた。

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