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楽しみがあればつまらなくてもどうにかなるものだ。

彼の中で、女性とのお出かけは楽しみになっていたのだと自身で驚いた。

興味のない流行の話題でも、誰かと誰かの人間関係など・・・箱庭の中は今日も狭い筈なのに話題は尽きることがない。

いや、尽きないように全員が目を光らせ弱みを見せないように過ごしているだけだろうか。

話題がなくなれば、もしくは何か気に入らないことがあれば重箱の隅をつつくように誰かに攻撃を始める人もいる。

その標的になりたくなくて、全員が話しを合わせ、目を伏せる。

目を伏せられた方の傷は想像を絶するが、そうしなければ自分が耐えられないことを動物の本能として察しているのだ。

たまに小動物だと思っていたものが王者だったり、心折れることなく立っているもの、折れても負けないものもいるが、極少数の存在を例としてあげるのはどこかの誰かの都合のいい言い訳だろう。


ぼんやりと箱庭について考えながら、黒板に書かれた数学の公式を書き写していく。

受験に向けた空気はいつしか学年中に広まり、伝染していく。

話題も数学の苦手なところや国語の情緒なんて分かるわけがないとか、あっという間に塗り替えていく世界観を彼は少し離れたところから見ている気分だった。


本日の箱庭終了の鐘が鳴る。

どっと一気に空気が明るくなるのが分かる。

掃除を開始し、ホームルームを聞き流した後、部活に行く者、寄り道をしようと話す者、塾へ向かう者。

それぞれの帰り道へ向かうなか、彼は少し足早に駅へと向かった。

来週は女性との約束の日だ。

それまでは大人しく真面目に勉強をしていなければならない。

行きたい大学もやりたいことも決まっていない。

しかし、目的があれば嫌なことも興味がないことも乗り越えられる。

存外、自分は単純だなと彼は苦笑しながら家路を急いだ。

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