6

「さぁ!勝負だよ」


テンション高く女性は彼にそう宣言した。

ガーターが得意と言いながら、何故か勝つ気満々の女性。

そのテンションを冷静に見ながら、彼は慎重にボールを選んでいた。


「三ゲームだからね!それ以上は私の体力持たないから!」

「いや、その前にボール早く選んできてくださいよ」

未だにボールを選ばない女性に彼はつっこんだ。

「やや!君、鋭いね」

どうやらすっかり忘れていたらしい。

慌ててボールを取りに行く女性にゆっくりでいいですよと声をかけながら、彼は第一投を投げた。

投げた理由は簡単。

最初が彼だからだ。

「あー!もう投げちゃったの!?」


最初なんだから、もうちょっとテンション高めに応援しようと思ったのに!


そう少しむくれる女性に彼は冷静に次どうぞとボールを投げるように促した。

何気にストライクだったのだ。

「だーかーらー!テンションあげようよ!」

「いや、お姉さんのテンションが高すぎなんですよ」

とうとう彼は声を出して笑った。

久しぶりに彼は本当の意味で笑った。

それを知ってか知らずか女性は嬉しそうに目を細めると、よしっと気合いを入れた。

「私もストライク目指すぞー!」

勢いだけは素晴らしかった。

宣言通りにガーターが得意だった女性。

あまりにボールがあさっての方向に行くので彼は少し考え提案した。

「ガーターなしにします?」

しかし、女性は首を勢いよく横に振ったのだ。

「情けなどいらん!」

何故か話し口調まで変えて断る女性がおかしくて彼はまた笑ってしまった。


いつぶりかも分からないほど、声を出して笑った彼は久しぶりに心が少し軽くなった気がした。

三ゲームは彼がほとんどストライクだったのに対して、女性は一回だけストライクを奇跡的に起こし、残りのほとんどがガーターだった。

その結果でも楽しげに笑う女性に彼は呆れながらも少しだけ感謝していた。

ボウリング場を後にし、時刻は夕方となっていた。

「よし、帰ろう!」

女性は時計を確認すると、うーんと伸びをした。

「明日は仕事だし、それに未成年をあまり連れ回すのも問題だしねー」

連絡先交換して遊びに誘うのも問題のような気もするが彼はあえて口にしなかった。

少しだけ息苦しさが解消した気がしたのだ。

「じゃあ、また遊ぼうね!」

年上の筈なのに同い年のように遊ぶ約束をする女性に気が向いたらねと返事をすると、彼は家に向かって歩き出した。

その背中を女性は手を振って暫く見送っていた。


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