第3話 寄せて上げて……からの〜?
「ただいまー」
最近、家に帰ったら必ず"ただいま"っていう癖がついた。自分以外誰もいなくても、気がまぎれるというかなんというか。
「……ただいま」
部屋の隅に座ったままのメイドロボをチラリと見てもう一度言ってみたけど、相変わらず返事はない。
──早く直してあげて、おしゃべり出来たらいいな……
要冷蔵の食べ物を冷蔵庫に仕舞い込み、あとは無造作にテーブルへ置く。
「それにしても、これは目に毒過ぎる」
帰宅したら裸の美少女が座って待っていました。
──どこのエロ漫画ですか?
いやまぁ現実としてそうなってるんだから仕方ない。ひとまず何か着せてあげよう。
あたしはそろそろ捨てるつもりでいたブラとパンツをクローゼットの奥から引っ張り出した。幸いにもヒップはあたしとほぼ同サイズで、あっさりと履かせる事ができた。
それでも、自分じゃない女性にパンツを履かせるとか、あまりにも初経験過ぎる。ほんとになんなんだこれ。
「じゃあ次はブラを……ん……んん!?」
ブラを付けようとして、初めて気がついた。
「でっか!! おっぱいでっか!!!」
思わず声が出た。細身なのに、おっぱいのボリュームが超凄い。抱えてきたときには気づいてなかったし、壁にもたらかせた時に肩が開いて、おまけに脱力してるから全然気づかなかった。
──ブラのサイズが小さすぎる……何もしなくても寄せて上げてになってて……
盛られたおっぱいにブラの縁が食い込み、今にも溢れ落ちそうだ。あたしは思わずスエットを捲り上げで、自分のとメイドロボのを交互に見比べた。
「ま、負けた……」
頑張って自分のも寄せて、上げて……ダメだ、どうやったってかないっこない。
実際、自分の胸は日本人の標準以上のサイズがあったから、そこそこ自信はあった。それが、今粉々に砕かれて……。
──う、羨ましくなんてないんだからね!?
これはどこのツンデレだ? バカな事やってる暇があったら、さっさとTシャツ着せろって。
そんな訳であたしはメイドロボにTシャツを着せて、床にどかっと座り込んだ。
──等身大の着せ替え人形……?
いやいやいや、だからそんな趣味はあたしにはないっての!
「それにしてもまだ充電終わらないのかなぁ」
メイドロボは相変わらず目覚めてくれない。目覚めたとしても両腕不自由な状態で喋るのとかも、なんか嫌だ。
「仕方ない、あいつに頼むか……」
さっきコンビニから帰ってくる途中、ふと思い出した友人。会社で同期の女友達。
──2年ぐらい前に"メイドロボのショップに転職する"っていって会社辞めたんだっけ
女性では珍しい、物凄く機械いじりが好きな子だった。趣味でメイドロボ修理の副業やってたのは社内でも有名で、結局それが高じて……って感じだった。
──もしかしたら、このメイドロボの直し方を知っているかも……。
自分にしては珍しく、テンション上がってきたのを感じながらスマホの電話アプリを立ち上げた。
────────────────────
「はぁー!! ほんまロクな客がおらん!!」
客からかかってきてた電話を切り、うちはスマホを座布団に叩きつけた。最近はメイドロボの見積もりしたら黙って電話切るやつとか、それだけでそんなに高いんかいとか、文句ばっかり言うてくる奴ばっかりや。
──独立して楽しかったんは最初一ヶ月で終わりやったな……悔しいけど店長の言う通りや。
うちが勤めてたメイドロボ修理専門店を辞めて、独立してからそろそろ三ヶ月目になる。最初は気分もぶち上がってたから、多少の失礼な奴らは許せてたけど──
「やっぱ世の中そんなに甘ないかぁ……」
今週は特に酷い客ばっかりで商売上がったりになっとる。そろそろ一人ぐらいは受けんと、食い扶持に困る感じになってきてる。
──とか言ってたらまた電話かい!!
けたたましく鳴るスマホを乱暴に握り、うちは電話に出た。
「はい、ボディワークス佐古山です」
今度一言でも値切ってきたら即ギリして店閉める。そう決めた瞬間、聞き覚えのある声がスマホから響いてきた。
「もしもし、佐古山さん? 浅島です」
「浅島……浅島ちゃん!? ほんまに浅島弓子ちゃんか!?」
うちは思わず前のめりになった。
「よかった、時間ギリギリだったからもう店閉まってるかなって……」
「何言うてんねん!! 浅島ちゃんのためなら、うちは火の中水の中やで! で、どないしたんや?」
ヤバい。新卒で入社した仕事場の同期、それもめっちゃ貴重な親友からの電話や……しかも何やら困った感じで、いかに何か頼みに来そうやで!そらテンション爆上がりや!
「この調子やと、困ってることあるんやな!? かまへんかまへん、話してみ? うちに出来ることならなんでもするで!!」
「元気そうでよかった。実はね……」
電話の向こうで静かに、そして真剣な声で浅島ちゃんが話し始めた。
「というわけで、連れてきたメイドロボがどうしても目を覚ましてくれなくて……もう何をどうしていいのやら……」
「事情はわかった。せやけど、かなり混みいってるぽいし、電話じゃなんともならん感じあるな……」
うちはスマホをハンズフリーにして腕組みした。確か浅島ちゃんはメカ音痴の筈や……テレビ会議で指示してもなんともならんやろなぁ。
「ねぇ、佐古山さん、こっちに来て欲しい……って言ったら怒る?」
「いや怒らへんけどな、うちは大阪住まいで、浅島ちゃん東京やろ?時間と交通費とか色々な……」
なんでもするって言ったけど、物事には流石に限界ある。世の中なんだかんだいうて、金と時間に勝るもんはあれへん。
「ふーん……さっき話した感じ、交通費込みでいくらかかるの?」
「せやな……少なくとも20万はいくで。宿泊費こみになったらもうわからんな。そっち、ホテル高いんやろ?」
一時期は出張修理も頑張ってたけど、交通費とか宿泊費も必要な遠隔地は流石にだるい。最近は関西以外の土地は仕事断るようにしてるぐらいや。
「……大吟醸・無限」
「な……なんやて!?」
大吟醸・無限。超高級な日本酒で、一升瓶一本で25万するやつや……なんでそれをここで?!
「それと、交通費全額支払いで、あたしの家で好きなだけ泊まっていい」
「……その話、乗った! 明日の始発でそっち向かうわ!!」
「ありがとう!!」
電話が切れた。うち、ほんまにチョロ過ぎやろ……。
──せやけど、なんか知らんけど楽しくなってきた気はするな!
うちは必要なパーツと工具をかき集め始めた。きっと、これはうちが独立してから大一番の仕事になるでぇ……。
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