第2話 腹が減ってはいくさは出来ぬ

 あたしはメイドロボを部屋に運び込んだ。思ったより重くて、息が切れてる。


 埃まみれだし、ところどころにシミがついてる。ベッドに寝かせる気にはなれなかったから、部屋の隅にあるスツールへ座らせた。


 お湯で濡らしたタオルを軽く絞って、埃やシミを拭きとっていく。


「……可愛いじゃん」


 人形みたいに整った顔にファッションモデルみたいなプロポーション。胸とかの細かいところも、凄くリアルに作ってある。


 ところどころに痛々しい切り傷があって、酷いところは機械の配線みたいなのがはみ出てる。

 さっき蹴られてた横腹の皮膚が剥がれかかってて、めちゃくちゃ痛そうに見えてしまう。


 そういうのがなければ、人間だって言われてもわからないかもしれない。


 そもそもなんであんなボロアパートの一室にこのメイドロボが捨てられてたんだろう?


「ねえ、あたしの声、聞こえてる?」


 返事はない。スツールに座らせて暫くの間、首を左右に振って何かを見ようとしてたけど、今はそんな動きも止まってる。


「あなた、名前なんていうの?」


 メイドロボの口が僅かに開いたけど、それっきり動かなくなったしまった。


「ちょっと、何か言って……」


 あたしが文句を言おうとした時、メイドロボの目が赤く点滅し始めた。


「ひぃっ!?」


 あたしはびっくりして後ろに飛びのいた。


「なにこれ……どうしたらいいの」


 よく考えてみたら、あたしはメイドロボの扱い方なんて全然知らない。買って家で使ってるって人は会社でもたまに聞くけど……。


 とりあえずネットで調べてみたら、どうやらバッテリー切れのサインらしい。人騒がせ過ぎる。


「ふうん、首の後ろにUSBタイプCのコネクタがあって……そこにノートパソコンとかのACアダプター刺せばいいのか」


 スマホの充電器だとパワーが足らなくて全然充電出来ないらしい。初めて知った。


「とりあえずノートパソコンのやつでいいとして……」


 手持ちのノートパソコンのACアダプターをメイドロボの足元に置き、彼女の頭を壁から浮かせて首の後ろを探る。


「コネクターっぽいもの、ないなぁ」

 

 もう一度調べてみたら、うなじのあたりの皮膚の下に隠れてるらしい。ということは、皮膚を剥がす必要がある。


「面倒くさいなぁ……よいしょっ……とぉ!?」


 メイドロボの上半身を壁から起こしたら、そのまま勢いづいてあたしに倒れ込んできた。とっさに彼女を抱き抱えて支えることには成功したが──


「えっ、あの、ちょっと」


 メイドロボのふくよかな胸が、自分の胸に思いっきり当たってる。


──柔らかっ


 彼女の上半身の重みのせいで、当たってるというよりは押し当てられてるという方が正解。


「待って、あたしそんな趣味は……」


 メイドロボの上半身を引き離そうとした手が止まる。


──なんだこれ……気持ち、いい……?


 男のごつくて固い胸板とは全然違う、全くの未知の感触。二つの膨らみがあたしの膨らみにあたって、なんというか……こんな感覚は初めてかも……。


──あたしは女同士でやったことなんてないし……ん? 女同士?


 いや待て待て、これはメイドロボ!! 話し相手は欲しいって言ってたけど、ここまでやるなんて言ってないから!!


「ご丁重にお引き取り願います……」


 あたしはゆっくりとメイドロボの上半身を引き離して、首の後ろの皮膚を慎重に剥がしてみた。


「これかぁ。確かにUSBだわ」


 ノートパソコンのACアダプターを繋ぐど、メイドロボの目が緑色に光りっぱなしになった。


「こんなとこまでスマホと同じにしなくてもよくない?」


 赤の点滅以上に気になるので、あたしは手でメイドロボの瞼を閉じた。ついでに半開きになってた口も閉じてあげると、まるで人間の女性が眠っているかのような顔になった。


「なんか本当に人間ぽいな」


 さっきの感触がまだ胸に残ってる。あたしは思わず、手で自分の胸を押さえた。


──悪くは……なかった……

 

 変な気分になりかかったところで、あたしは買い出しがまだの事を思い出した。コンビニに行かねば、今度は自分の充電が切れてしまう。


 気を取り直したあたしは、メイドロボの顔を見てから玄関のドアを開けてコンビニへと向かった。

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