第4話 一回、一回だけね

 とりあえずこれで、メイドロボを直せる! 直ったら色んな事をお喋りしたいな。こんな気持ちになるのは久しぶりかも。


──なんか若返った気がする


 高校生の時はもっと普通に友達と喋ってたような記憶はある。就職して、思ってたのと違う仕事させられて、同期の友達もどんどん辞めていって。


 気がついたらあたしは孤独になってた。寂しくてたまらなくて、だから彼氏を作っては振られ、作っては振られて……。


"ぴろりん"


 スマホのメッセ、誰かから何か来た?


「ごめん、言うの忘れてたことあったわ」


 佐古山さんからのメッセだった。


「あのな、メイドロボの写真送って欲しいねん」

「写真?」

「その子を直すためのパーツと材料な、どんなもんか確認したいんや……なんせ今回は遠距離の出張やから、荷物あんまり持っていけんのや」


 なるほど理解。


「頭、顔、上半身、下半身を出来るだけ肌出して前後左右から分けて撮って欲しい。あと、傷とかあったらそれは別口でズーム撮影してくれると助かる」

「わかった」


 あたしは佐古山さんに言われた通り、メイドロボの服を脱がせにかかった。


──なんか気遅れする……


 いくらメイドロボとはいえ、女性の服を脱がせるなんて初めての経験だ。物凄く後ろめたい感じがして、中々上手く脱がせることができない。


「これでいいかな……」


 触った感じが人肌と殆ど同じ。とてもじゃないけど、マネキンとかロボットを相手にしている気になれない。


──あらためて見ると、すごいな……


 この子、こんだけ細身なのに胸がめちゃくちゃでかい。冷静にみてGカップは絶対にある。


──Fのあたしが普通に見えるとは一体


 それはともかく、写真を撮って送らないといけない。あたしはスマホのカメラでメイドロボの撮影を始めた。


「……なんかドキドキする」


 カメラのシャッターを切るごとに息を止め、心臓がどっくんどっくん鳴っているのがわかる。


──いやいや、相手はメイドロボ。これはこの子直すための資料作りだ


 大まかな写真は撮り終わった。シャッター切るのをやめ、深呼吸して気分を落ち着かせる。


「次は傷跡か……」


 近寄って手足や背中をよく見てみると、色んなところに傷が入ってる。

 昨日蹴られた横腹は皮膚が捲れてて、隙間から見える機械部品もなにか変な形になってる気がする。

 

 ちょっと嫌な感じがしたので、あたしは、佐古山さんにメッセで相談した。


「せやな……横腹の傷はできたらその周りも撮っといてんか」


 佐古山さんに言われた通り、あたしはメイドロボの横腹や脇をカメラで撮った。


──でかい


 どうしても視界にメイドロボのおっぱいが入ってくる。視線をそらそうとすればするほど、気になって仕方がない。


 サイズが合わないブラに押し上げられ、溢れそうになってる。


「……」


 あたしは指をスマホカメラのシャッターボタンから離し、ゆっくりとおっぱいに近づけて──


「……柔らかい」


 マシュマロみたいな柔らかさで、指を離すと形が戻る。触り心地がよくて、何回もつついては離してるうちに──


 あたしの心の中の何かが、キレた。


──もう一回。もう一回だけだから


 あたしはスマホをマットレスに放り投げ、スエットを勢いよく脱ごうとした。肩とか髪が引っかかるのさえもどかしい。


 脱いだスエットを脇に投げ出し、上はブラだけの格好になった。

 メイドロボを見つめる。傷跡の生々しさが、溢れそうな乳房のシルエットを強調してる感じ。


──ブラを付けた上からだし、いいよね


 あたしは生唾を飲み込み、メイドロボの肩を掴んで、静かに自分へと引き寄せる。


 この子とあたしの……胸の二つの膨らみ……頂き同士が重なるよう……ゆっくり丁寧に。


──ヤバい、ヤバい


 心臓がバクバク鳴って、今にも爆発しそう。息が荒くなってるのが自分でもわかる。


 膨らみをガン見すればするほど、身体の芯がザワザワする。


 手が震えてきたから、息を大きく吸い込んで止めた。


──あと2cm……あと、5mm……


膨らみの頂き同士がほんの少し、でも確実に"触れた"感じがきた瞬間。



"ぴろりん"


"ぴろりん"

"ぴろりん"



「ひぁあっ!?」


 スマホのメッセの着信音が何度も鳴り響いて

あたしは我に返った。あわててメイドロボから離れ、スマホの画面を見る。


「写真まだ? このままやと、うち寝られへん」

「ごめん!今から送る!」


 あたしは慌てて写真を佐古山さんに送った。


「……これでいい?」

「おおきに!もしかしたら現地調達せんと足りんかも」


 確かに、動かない両手を直す必要あるし、足もどうなってるかわからない。

 

「まぁお喋り出来るぐらいやったら、そんなに時間かかれへんよ」

「本当!? よかった……」


 あたしは気が抜けて、マットレスに倒れ込んだ。


「ところでな」

「どうしたの?」

「この子、でっかいな……」

「それはそう」


 二人で一緒に納得してしまった。まぁ大きいのはいいことだ……。


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