第八章「土曜八時、体育館ステージの衝突クライマックス」

 土曜日の朝、体育館は百周年式典の準備で騒がしい。校旗が舞台に掲げられ、椅子が整然と並べられている。会場には生徒たちが次々と集まり、緊張と興奮が入り混じった空気が漂っていた。奥山たちは舞台袖に集まり、式典開始を目前に控えた焦燥感を共有している。ドローンに奪われた校章プレートが戻ってこないまま、開式まであと十分となった。

「やっぱり、まだ見つかってないのか?」岡元が腕を組んでうなり声を上げる。井上はあくびをしながらぼそりとつぶやく。「ドローンってどこに行ったんだろうなー。ま、どこかで引っかかってるんじゃね?」奥山は苛立ちを抑えきれず、拳を握りしめた。「百周年の記念式典を台無しにするわけにはいかない……規律を乱す者を必ず捕まえる」

 その時、植松がスマホを片手に小さな声で言った。「……ドローンの位置、わかったかもしれない」みんなが一斉に植松に注目する。「天井梁に引っかかっている信号がある。ちょうど体育館の天井付近。恐らく、あの辺りだ」奥山が息を飲む。「まさか、そんな高い場所に……どうやって取る?」城田が冷静に提案する。「よじ登るしかないよね。僕、試してみる」

「いや、ここは俺が行く!」岡元が一歩前に出ると、篠崎が心配そうに声をかける。「無理しないで、危ないから……」だが、岡元は笑って親指を立てた。「大丈夫だって!こう見えても、運動神経には自信があるんだから!」

 体育館の梁に向かってロープを使い、岡元が必死に登り始める。その姿を見守りながら、奥山は固唾を飲んでいた。ロープが軋む音が響き、岡元が少しずつ高度を上げていく。観客席の生徒たちもざわつき始め、何が起こっているのか気にしているようだ。

「もう少しだ……頑張れ!」篠崎が小さくエールを送ると、岡元が振り返って笑った。「おう、まかせとけ!」ようやく梁にたどり着き、ドローンが引っかかっているのを確認する。「よし、取ったぞ!」岡元がドローンを掴んだ瞬間、突然の羽音が再び響き、ドローンが急に動き出した。「おわっ!」バランスを崩した岡元を見て、城田が慌てて声を上げる。「岡元、気をつけろ!」

 しかし、すんでのところで岡元は片手で梁を掴み、ドローンをロープで固定して動きを封じた。「オッケー!止めた!」岡元が笑顔で叫ぶと、下から拍手が起きる。やっとのことで地上に戻ると、奥山が真剣な顔で確認する。「プレートは無事か?」岡元が取り出したプレートには、泥と傷がついているが、大きな損傷はない。「ああ、問題ないみたいだぜ」

 その時、式典の開始を告げるベルが鳴り、校長がマイクを持って舞台に上がる。「皆さん、お待たせしました。本日は本校創立百周年を祝う記念式典です」その声が響き、場内が静まり返る。奥山は汗をぬぐい、プレートを両手で抱えたまま校長の元へ駆け寄った。「校長先生、これが校章プレートです!」

 校長が驚きと安堵の表情を浮かべ、プレートを受け取る。「よくぞ見つけてくれた。君たちのおかげで無事に式典を開始できる」奥山は深々と頭を下げ、篠崎がほっと息をついた。

 すると、観客席の後ろから井上が勝手にマイクを持って実況を始めた。「いやー、まさかドローンが犯人だったとはね。緊急報告、泥だらけの奥山がヒーローです!」奥山は顔を赤くしながら怒鳴る。「勝手に実況するな!」しかし、会場はその言葉に笑いに包まれ、和やかな雰囲気が漂う。

 城田は観客席からマイクを奪い取り、優しく声をかける。「皆さん、こうして平和的に解決できたことが一番の収穫です。学校の誇りを守ってくれた仲間に感謝しましょう!」その言葉に再び拍手が起こり、岡元はガッツポーズを取る。植松は少しだけ照れくさそうにうつむいていた。

 プレートの裏側を何気なく見た篠崎が小声で驚いた。「これ……」奥山が確認すると、裏には「退屈を塗り替えろ」と赤いスプレーで落書きがされていた。誰が書いたのか、目的が何なのか、依然として謎が残る。

「どうやら、真犯人はまだ捕まっていないようだな……」奥山が悔しそうに呟くが、篠崎は優しく笑った。「でも、みんなで協力して解決できたから、それが一番ですよね」その言葉に、奥山もようやく笑顔を浮かべた。

 観客席にいる生徒たちの笑い声や拍手が、式典を祝福するように響く。規律や規則だけでは解決できない問題もあると、奥山はようやく理解し始めていた。篠崎の自然体な笑顔に助けられながら、彼は少しずつ肩の力を抜くことを覚えつつあった。

 終

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