第三章「放課後十七時、ラーメン屋『紅蓮』作戦会議」
夕焼けが商店街を赤く染める頃、古びたラーメン屋「紅蓮」には六人が集まっていた。窓際の席に並んで座り、それぞれが湯気の立つラーメンを前にしている。カウンター越しに店主が無骨な手つきでチャーシューを切っている音が響く。
「ふう……やっぱりラーメンはここが一番だな」
岡元が豪快に麺をすする。その隣で井上は餃子を一口かじり、ため息をつきながら言う。
「結局、校内にはなかったってわけか。探すのも面倒だし、これで解決でいいんじゃね?」
「それで済むか!」
奥山が力強く反論する。器用に味玉をつまんで啜りながらも、その眼光は鋭い。
「校則を破り、百周年式典に泥を塗るような真似は許されない。必ず犯人を見つけ出す」
「まあまあ、まずは落ち着こう」
城田が手を振って宥めると、篠崎が笑顔でフォローする。
「みんなで考えた方がいいですよね。あちこち探しても出てこなかったし、もっと手がかりを絞れないかな」
その時、岡元が店主に声をかけた。
「おじさん、最近ここで変な人とか見なかった?」
店主は渋い顔をしながら、記憶を手繰るように眉を寄せた。
「ああ……そういや昨夜、着ぐるみを着た誰かが掲示板を引きずってたな」
「着ぐるみ?」
篠崎が目を丸くする。奥山は真剣な表情を崩さず、さらに問い詰めた。
「どんな着ぐるみだった?」
「シラサギ先輩だよ。あの大きなマスコット。夜中に動いてたから、ちょっとビビったけどな」
「着ぐるみが掲示板を運ぶ……?」
奥山は考え込む。無機質な校則冊子のページをめくりながら、規律に当てはめようとするが、そんな事例は見当たらない。
「じゃあ、マスコット倉庫に行けば手がかりがあるかも?」
篠崎が提案すると、井上が気だるげに反応した。
「着ぐるみって重いだろ?夜中に動かすとか、相当マッチョな奴じゃないと無理じゃね?」
「確かに……普通なら複数人じゃないと無理だよね」
城田が頷きながら、理論的に考えを巡らせる。その間、植松はスマホでシラサギ先輩の画像を確認し、静かに呟いた。
「……中に入るなら、背が高くないと足が届かない」
「となると、身長がある人物……それに、夜間校内に忍び込むという校則違反を平然とやってのける度胸も必要か」
奥山が腕を組んでうなり声を上げる。
「夜中に動いたってことは、校則違反の夜間侵入ってことか。許せない……」
ラーメンのスープを飲み干して、息を吐く奥山に、篠崎がそっと手書きのマップを差し出す。
「今夜、マスコット倉庫を見張ってみませんか?もしまた動くなら、その時に確かめればいいと思います」
「ふむ……合理的だ」
奥山は素直に頷き、篠崎の柔らかい提案に少しだけ心が和らいだ。
「でも、見張りだけじゃ心許ない。僕が衣装を用意するよ」
城田が突然言い出し、みんなが驚きの声を上げる。
「どういう意味だ?」
「話し合いで解決できるように、平和的な見た目が大事でしょ?」
「いや、そんなことより、動く着ぐるみにどう対処するかが問題だ」
奥山が反論しようとすると、植松がそっとテープメジャーを取り出し、城田の肩幅を測り始めた。
「……動きやすさも大事」
「何を作るつもりなんだ……」
奥山が呆れ顔を浮かべる中、井上は餃子を頬張りつつ呟いた。
「結局、ラーメン食ってる間に誰も犯人を確信できてないってオチ?」
その一言に、場が一瞬だけ静まり返る。しかし、すぐに岡元が両手を広げて笑った。
「ま、動いてみなきゃ分からねえって!次は夜の倉庫、全員集合だ!」
活気づくメンバーに、奥山も渋々ながら同意し、心の中で決意を新たにした。
(規律を乱す者を、必ず見つけ出す……!)
夜の見張り計画を立てた六人は、いつの間にかラーメンを完食し、会計を済ませて店を出た。外には夕闇が迫り、街灯が少しずつ光を灯し始めている。
奥山は夜の冷たい風を感じながら、心のどこかで期待もしていた。
(もしかしたら、規律だけじゃ解決できないこともあるのかもしれない……)
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます