第二章「昼休み十二時三十分、消えた校章プレート」

 昼休みの鐘が鳴り響き、校内は一気に活気づいた。食堂へ向かう生徒たちが廊下を埋め尽くし、楽しげな声が飛び交う中、奥山は足早に食堂前の掲示板へ向かっていた。

 理由は明確だった。先ほど教室で耳にした「校章プレートが消えた」という噂が気にかかっていたのだ。

 食堂前の掲示板にはすでに人だかりができている。奥山はその中心へ向かい、掲示板を確認した。確かに、先週取り付けられたばかりの真鍮製校章プレートがきれいさっぱり無くなっている。釘だけが無残に壁に残り、掲示板自体もごっそり消えている。

「なんてことだ……」

 奥山が眉を寄せて考え込んでいると、後ろから篠崎がひょこりと顔を出した。

「本当に無くなっちゃってますね。あれ、百周年式典に使う大事なものなのに」

「そうだ。これは重大な校則違反だ。犯人を特定しなければならない」

「でも、どうやって調べますか?」

 篠崎が困ったように眉をひそめた。その時、城田がゆったりと近づいてきた。彼は状況を確認すると、持っていたスポーツドリンクを飲み干してから言った。

「そんなに焦らなくても、話し合えば解決するんじゃないか?無理に探さなくても、そのうち誰かが届けるかもしれないし」

 奥山はぴしゃりと否定した。

「話し合いで解決するなら、そもそも無くならない。犯人を特定し、責任を追及しなければならない」

 その時、元気よく駆け寄ってきたのは岡元だった。泥のついた靴をそのまま鳴らして駆け寄り、息を弾ませながら叫ぶ。

「プレートなら、現物がどこかにあるはずだ!足で探そうぜ!」

「しかし、闇雲に探しても無駄だ。まずは情報を集めて……」

「動かないと何も始まらないって!」

 奥山が返事に詰まっていると、井上がのんびりとカレーライスを持って現れた。スプーンをくるくる回しながら言う。

「昼飯優先だろ?プレートなんか、そのうち誰か見つけるさ」

「お前は何も考えていないのか!」

 奥山が怒りを抑えながら言うと、井上は肩をすくめて、スプーンを口に運ぶ。すると、後ろのベンチに腰掛けていた植松がノートにメモを取りながら小さく言った。

「……盗むにしても重すぎる。掲示板ごと運び出すのは無謀だ」

「掲示板ごと、か……」

 奥山は新たな視点に気づき、思わず唸る。犯人は掲示板ごと運んだ。つまり、何らかの方法でそれを持ち去ったに違いない。

「じゃあ、みんなで探せば早いですね!」

 篠崎がぱっと顔を上げた。奥山が目を細めて問い返す。

「協力するというのか?」

「はい。みんなで手分けして探せば、効率もいいですし、意見も出し合えますから」

「……ふん。やむを得ない」

 奥山はしぶしぶながらも同意し、手分けして校内を捜索することになった。篠崎は岡元と共に体育館方面を、城田は校庭を、井上は食堂内を、植松は資料室を担当することに決まった。

「よし、必ず見つけ出すぞ!」

 奥山が気合を入れて拳を握ると、篠崎が微笑んで頷いた。その微笑みを見て、奥山は少しだけ心が軽くなるのを感じた。

 しかし、どこかで胸騒ぎもしている。校則違反者を炙り出すだけではない、不安のような感覚が胸をよぎった。

(この混乱が、更に大きな問題を引き起こすのではないか……?)

 そんな予感を押し殺しながら、奥山は廊下を駆け抜けた。

 終



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