第1話 少女のときめき「憧れのデュクシ!」





夜・・・学校からほど近い築年数の過ぎたマンション

三人の親子が仲睦まじく暮らしていた


父はサラリーマン 母は隣町のスーパーで働き家計を助けていた


ワタラセ アイラ12歳

霧ヶ峰中学一年A組に通う赤いメガネの少女


インターホンに受け答えする アイラ

「お帰りなさい お父さん」


笑顔で娘の頭をなでる 父

「ただいま アイラ」


笑顔を返す アイラ

「フフッ」


夕食の時 会話が弾む三人の親子

父がアイラに・・・

「学校は楽しいかい? アイラ」


アイラが答える

「うん! 先生も良くしてくれるし 勉強も楽しいよ」


母が会話に加わる

「図書委員になったのよね アイラ」


父が喜ぶ

「おぉ~本好きのアイラにピッタリじゃないか」


アイラ 微笑む

「うん」


弾む三人の会話 アイラが今日の出来事を話す

「あのねっ お父さん 今日学校の屋上で

すっごい素敵な女の人見かけたんだよ

同じ制服だったから 上級生だと思うんだけど・・・」


母が笑う

「アイラったら 今日はその話でもちきりね」


興奮気味に話す アイラ

「だってお母さん ホントにホントにすごいんだから

テレビに出てくる アイドルとか女優さんとかモデルさんとか

もぅ例えられなくて 透き通った感じ 神々しいというか・・・」


父が興味を持つ

「へぇ そんなにすごい人なら アイラが友達になって

お父さんに紹介して欲しいなぁ」


頬を赤く染め 父の言葉を否定する アイラ

「無理 無理 無理 無理 絶対に無理だよぉ~

私みたいな子 相手にしてくれないよぉ~」


顔を見合わせる 父と母 アイラが言葉を足す

「それに私 コミュ症だし 友達出来たこと・・・ないから」


父がやさしく アイラをさとす

「ゆっくり ゆっくりでいいんだよ アイラ」


「生まれた時から入退院の繰り返し 小学校も

あまり行けなかったけど アイラの友達探しは これからなんだよ」


自信なく下を向くアイラ 自然と右手を左胸に当てる

「でも わたし・・・」


父が語る

「その胸の傷は アイラが頑張った証拠

恥ずかしいものじゃない 必死になって生きようとした 証なんだよ」


涙ぐむ母 顔を上げ父を見る アイラ

「お父さん・・・」


父がやさしく語る

「三回の手術に頑張ってきたんだ

ゆっくりでいい 頑張らなくていい 焦らず

アイラの歩く歩幅に 合わせてくれる人を見つければいい」


アイラホッとする たまらず笑顔

「お父さん・・・ありがとう」


涙を拭う 母

「その時が来たら お母さんケーキ作ってもてなしちゃうから」


アイラが答える

「ありがとう お母さん 気長に待っててね・・・」


父が笑う

「気長に待っててかぁ・・・案外早く来るかもしれないぞぉ 

今度の日曜日とか?」


おどろく 母

「あらぁ大変 早速ケーキの材料買って来ないと・・・」


アイラがさとす

「もぉ~お母さんはせっかちなんだからぁ~」


三人の笑い声 小さな幸せをかみしめながら

日々をすごす 小さな家族・・・




夕食後・・・湯船につかる アイラ

両手を手刀の形に変えて・・・独り言を呟く・・・

湯船のお湯がパシャパシャと弾ける・・・ 

黙々と それを繰り返す


「デュクシ! デュクシ! デュクシ・デュクシ!!」


今日の出来事 ツクヨのことを思い出し妄想を膨らませながら 

物思いにふける アイラ 

読書で培った語彙力

とても中学一年生に思えない考察を始める


(一瞬の怒りを内に秘め 冷静さをたもつあの表情・・・

繰り出すまでの間合い あの刹那の時・・・

スピードとインパクト・・・

油断した相手に悟られる直前・・・放たれた 閃光・・・

的確な状況判断 一点集中 おそらく利き腕から放たれたそれは

少しの派手さを演出 えぐりこむように相手の左わき腹に 着弾・・・


着弾点を基準点にくの字に折れ曲がる 対象者の体・・・

その表情と痛み・・・

驚きのまばたきから苦痛を思わせる口元・・・

だがそれは甘噛みに似た痛みへと変わり 

放つ者から放たれた者への 怒りと友情の伝達・・・


わき腹から伝わり わき腹に残る僅かな羞恥心が

脳内を駆け巡り・・・

膝関節 力の無効化 崩れ落ちながら・・・

言葉にもならない声を・・・上げてしまう・・・


枯れ果てた姿 しおらしく・・・罪悪感が彼の心を支配する

己の何気ない振る舞いが

今あるこの現状に・・・遅い気付きに・・・後悔の念・・・


謝罪の言葉・・・

余韻の残る痛みがプルプルと震える体の自由を奪い・・・

罪悪感と後悔の念に潰されそうな精神は心の自由を奪われ・・・


そしてもう一度・・・言葉に出来ない声を 上げてしまう・・・


凛々しく いさぎよい彼女の表情・・・

友情の中にきびしさをもって気付きをうながし・・・・・)




ツクヨの顔を思い出し・・・興奮するアイラ

湯船のお湯がはじけ飛ぶ・・・デュクシを連呼しながら

デュクシを連打する

「あぁぁぁぁ~デュクシ!デュクシ! デュクシ!・デュクシ!

デュクシ!・デュクシ!デュクシ!・デュクシ! デュクシゅ~!!!」


一息つくアイラ 何気なく自分のわき腹に

デュクシと言いながら手刀を突く


「うぅデュクシ!」


少しの感激・・・と同時に自然と目に付く

左胸の手術の傷跡・・・下を向き湯船のお湯に顔をつけるアイラ


「・・・・・・・・」


限界まで息を止めもがいてみる アイラ


「う~ん・う~ん・う~ん!!!!・・・ぷはぁ~!」


もう一度見つめる 左胸の手術の傷跡

父の言葉を思い出し・・・自分の顔をピシャリと叩く

深呼吸・・・目を閉じ落ち着きの中・・・繰り出す!!!


「デュクシ!!!」


お湯がはじけ飛ぶ ニヤニヤするアイラ 満足するアイラ

ツクヨの顔を思い出し妄想を膨らます アイラ




「いいなぁ 私もあんな素敵な人にデュクシ!されて見たいなぁ」






時同じ頃 学区内にあるタワーマンション

最上階のバルコニーから 月明かりの力を借りて

右目に力を込める ツクヨの姿


「見つけた!・・・大きく膨らんでいる!・・・

あの膨らみが 言霊になる前に 私たちは・・・・・」


違和感? 少しの疑問を持つ ツクヨ


「でも とても無邪気で・・・何だか・・・楽しそう・・・?」




第一章「憧れのデュクシ!」

第二話 美少女の憂鬱「ツクヨはコミュ症!」につづく


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