第7話 (革命前夜・アベマリア)
『ヒーローをみつけなさい』
その「通信」をアベマリアは文字通り、地球を救うヒーローのことと受け取った。
叔父がそのヒーローだったとしたら、後継となるような人物はほかにもいるにちがいない。それは私にとっても同士となるのだろうと直感した。
幸運にも叔父の愛読者は日本全国、いまや世界中にいる。叔父は自分自身がメディアに出ることは嫌っていた。いや、宇宙から止められていた。だから本にもサイトにも顔は出さなかったし、唯一講演会の時だけ人前に出ていた。
本を待つ人々が叔父のサイトには日々アクセスしてくるので、そこでヒーローを集めることにした。
でもその人がヒーローの素質があるなんて、どこでわかるのだろうか?
私は自室でふとまた人差し指を空へ向けてみた。
『魂のレベルを測りなさい』
またあの声がやってきたのだ。私はもう完全に通信できているのだろうか?
魂のレベルってどこでわかるの?
また人差し指を指してみる。
『数値でわかる』
数値。ふと昔テレビでみたドラゴンボールのアニメで、敵の人がつけていたメガネのようなものが浮かぶ。ふふっ。アベマリアはまた楽しくなった。
叔父の数値はどのくらいなのだろうか?
人差し指を上へ向ける。
今度は声ではなく、数字が頭に飛び込んでくる。映画マトリックスのような黒スクリーンに緑の機械的な数字だった。
「68525253」
なるほど。私はいくつなんだろう。
「45224775」
けっこう違うんだ。
叔父のもとで働く佐藤さんはいくつなんだろう。
「35771852」
へぇ。じゃあいまの総理大臣は?
「14552699」
その夜、アベマリアは面白くなって思いつく限りの人物の魂レベルを調べた。
その結果、必ずしもヤクザや金融ローンの会社社長のような役回りの人々がいちがいに低いわけではないことがわかった。魂レベルは経験値のようなもので、人生経験を通して良くも悪くも学習している人たちが高いような気もする。しかしまだ統計の結果をとれるほどには至っていない。
叔父がエゴをやめなさいと言ってたのは、自己の欲望で生きるのではなく、他者への貢献のために生きろということ。数値が高い人たちは、もう自己欲求を捨てているのかもしれない。
応募者は数日で10名ほど集まった。
アベマリアはサイトに「支援者を募る」ことを記載した。支援といっても金銭的なことではなく、なんらかのかたちで地球に貢献できるという意味だ。応募者にはこちらで判断の上、お願いしたい方に別途個別に連絡をすると書いておいた。
一人ずつ見ていくと80才で農業で貢献ができるという男性は「8520」。桁が全く違うことに驚く。
37才、外国語で貢献できるという女性は「60855」。45才の数学教師「412778」。
ドラゴンボールで例えるなら村民と戦闘民くらいちがうのではなかろうか。
結局10名の中でひとりだけ、「24758996」という自分たちと同じ桁数の男性がいた。彼は秋田県に移住して漁師をしているという。メールで連絡をとり、後日東京のオフィスまで来てくれることとなった。
「そこから約3年間、これまでに「仲間」が日本全国から17名集まりました。それでも宇宙からはあと21名まで集めるように言われているんです。」
アベマリアはそう言って、叔父アベオサムの代表作となった本を彼に差し出した。
「世田谷さんもぜひ私たちに協力してもらえませんか?」
セタガヤミノルは日に焼けた精悍な顔立ちを少し怪訝そうに曇らせ、本を受け取った。
「すみません、ちょっと読んでみますけど、なんかまだよくわからなくて...」
「そうよね、急にこんなこと言われたってね。お友達に言われて来たんでしょ?でもそのお友達もすごいわね、こんなところへよく応募したわよね」
「付き合ってる彼女なんですけど、こういうのがすごく好きで、よく勧められるんです。アベオサムっていう名前は聞いたことがありました。」
「そうなのね。10代の子にも知ってもらえてるだけ私たちも嬉しいわよ」
今となっては叔父の本を読む年齢層は格段に上がってしまった。
「本当は本人がとても来たがってたんです。でもなんかオレの方が呼ばれちゃったから、一応彼女に報告するためだけに来ました。」
セタガヤミノルは本当に何も知らずに来たようすだった。この1時間、怒涛のように話した宇宙と地球の現状も理解できたのかは怪しいところだ。
「そうよね、本当はその彼女にも来てほしいところですけど、やっぱり数値がね、満たないと難しいところがあって。ごめんなさいね。もしまた興味があったら、来月にさっき話したみんながここに集まる予定なの。10時からだから、来たい時はこの携帯に電話してくれる?」
フセンに事務局の携帯番号を書いて手渡した。
「はい」
フセンをじっとながめ、そっと本にはさんだ。
「じゃあ今日は来てくれてありがとう」
立ち上がったセタガヤミノルの身長に改めて驚く。体は引き締まり、姿勢も良く顔も小さい。モデルになれるんじゃないの?と言おうとしたがやめた。セタガヤミノルは若干18才でここへ辿り着いた。仲間たちの中では断トツに若く、できたら仲間に入れたい。だからこそ、つまらないオバサンの軽口で嫌われたくはなかった。
この気持ちはエゴでしかない。認めざるを得ない。なんとも言えない欲望が自分の中に渦巻く。
セタガヤミノルは軽く頭を下げ、事務所としているマンションの一室を後にした。
叔父が生きていたら彼のことを何と言っただろうか。意見を聞いてみたかった。
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