第4話 蜂妖精の巣ができました(勝手に)

 ダンジョンに井戸ができた翌日。

 俺は“ぷにた”と“ドボル”に協力してもらいながら、水場の整備と畑の拡張に精を出していた。


「いい感じに広くなってきたな。ぷにた、今日の水やりよろしく」


「ぷににっ、了解~!」


 ぷにたはバケツを抱えて、ラフリーフ畑をぴょんぴょんと跳ねながら走っていく。

 畑の区画は三倍に増え、簡易的な石壁で囲まれている。野生動物やモンスターが入ってこないようにする、最低限の柵だ。


 ダンジョンとはいえ、俺が選んだのは“開拓型”。

 つまり、侵入者と戦うのではなく、環境を整えて人とモンスターが“住める空間”にすることが目的だ。

 そのため、敵が襲ってくる頻度も低い。代わりに、環境問題とモンスター同士の調整が面倒になる。


 そんななか、突如――異変が起きた。


「……ん? ぷにた、あれ何だ?」


 畑の奥、ラフリーフの葉陰に、見慣れない構造物ができていた。

 直径一メートルほどの、木と葉を編んで作られた半球状の小屋。その入口から、何かが出入りしている。


 ぱたぱたと音を立てながら、黄色い小さな影が飛び交っていた。


「マスター! あれ、妖精の巣だよ! 勝手に作ってる!」


「勝手に……?」


 俺は眉をひそめながら近づいてみた。

 巣の入口にいた小さな生き物が、ぱたぱたと羽音を鳴らし、くるりと振り向いた。


「はじめまして、蜂妖精(ハニーウィスプ)です! おいしい畑を見て、引っ越してきました!」


 ……しゃべった。なんだこいつ、異様に明るい。しかも、一匹じゃない。

 周囲には、十数体の蜂妖精たちがせっせと花粉を運び、蜜を貯め、小屋を補修している。


「ちょ、勝手に引っ越してくるって……」


「問題ないよ! 迷惑かけないし、畑の受粉もするし、蜜もあげるよ!」


 ……いや、確かに蜜は魅力的だが。


「一応、ここは俺のダンジョンなんだけど」


「うん、知ってる。でもあなた、歓迎してくれるタイプのコアでしょ? だから来たの。外のコアはみんな殺気立ってるけど、ここは“あったかい”」


 蜂妖精のリーダーと思しき子は、笑ってそう言った。

 その笑顔は、こちらの警戒を一瞬でほどいてしまうほど無垢だった。


「ぷにた~、ぷにたは妖精ちゃん好き~」


「お、おい」


 ぷにたがすり寄っていく。蜂妖精たちも警戒するどころか、すぐに受け入れてしまった。

 どうやら、ここは“そういう空気”らしい。


 俺はため息をひとつ吐き、手を上げた。


「……まあ、いいか。仲良くしてくれるなら歓迎する。騒がしくしなければ問題ない」


「わあい、ありがとう! じゃあ、正式に巣を拠点登録しておくね!」


 その瞬間、俺の視界に「小拠点【蜂妖精の巣】登録完了」と表示された。


 俺のダンジョン、勝手に拡張されたんだが。


 まあ、いい。

 こうして、蜂妖精たちは俺の都市の一員となり、畑の管理にも参加するようになった。


 ――そして夜。


 蜂妖精が持ってきてくれた蜜で、俺は初めてスープを甘く仕上げた。

 花の香りが漂うその味は、今日一日の疲れを静かに癒してくれた。


 この都市に、またひとつ“味”が増えた気がする。



あとがき

今回は、初の“自発的な来訪者”として蜂妖精たちが登場しました。

主人公が何もしなくても、平和と美味しさを求めて人(?)が集まってくる。これは“都市として魅力が育っている証拠”です。


次回は、少しずつ外の世界と接触が生まれる重要なターニングポイントです。

「勝手に来る者」と「計画的に訪れる者」の違いが、次の展開を分けていきます。


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