第2話 カースケイド

 レイは夢を見ていた、自分の母親が生きていた頃の。


「母さん……?」


 夢の中の母親は微笑みながら優しい眼差しでレイを見つめている。


「レイ覚えておいてね。たとえあなたが誰かに裏切られたとしてもあなたは誰かを裏切らないこと。憎んではダメよ」


 かつての優しい母親の姿にレイは、安堵感を覚える。


 もし母親が、生きていたら今の自分にも少し違った未来があったのかもしれない。


「母さん……無理だ。無理なんだ。俺はあの裏切り者達を許すことはできない。みんな俺を裏切る……」


 おそらくこの先もそうだろう。


「心を悪に染めてはダメ。気をしっかり持ってレイ」


「母さんが生きていてくれたら良かった……でももういないんだろう?」


「憎しみに負けてはダメよ」


 レイは分かっているのだ、これは夢で実際の母親はすで死んでいるということを、そして自分の理解者はもういないことを。


「その通り」


 突然夢の中で声が声が聞こえてきた。


 それはかん高く母親の声では無い。


 そこでレイは夢から覚めた。


 ✝


 目覚めたレイが辺りを見渡すとそこはいちめんの闇だった。


 その暗闇の中ただ一点だけまるでスポットライトに照らされているかのような場所があった。


「ここはどこだ……」


 先程まで自分はバス中にいたはずなのに、気づけばこんな暗闇にいる。


 レイは自分になにが起こったのか状況が全く理解できなかった。


 立ち上がり足元に気を付けながら、この場で唯一の灯りの差す場所を目指す。


 地面も暗いが道は平坦で歩きやすかった。


 すぐにレイは灯りの場所までたどり着いた。


「なにもないのか……?」


 特に何も無い、灯りが当たっている場所にレイは怪訝に思った。


 するとその灯りの地面からなにかが勢いよく噴き出してきた。


 それは赤黒い液体でレイは鉄の匂いを感じた。


 それはレイに降りかかり、レイの体をも赤黒く染め上げた。


「こ、これは……血なのか?」


 はっきりとは分からない、だがレイは感覚的にこれは血液だと確信する。


 夢だと思いたいが、このむせるような血の匂いと生温かい感触は現実を実感させた。


 気持ち悪い。


 すると噴き出した血溜まりから何かが浮き上がってくる。


 グチュグチュッ。


 頭、肩、腕、腰とだんだんとその全身を現してくる。


 それは血にまみれた黒の豪奢なドレスをまとった女性のようであった。


 だがその長い黒髪によって顔は隠されている。


 異常なのはその背丈。


 レイの身長が178センチだがその女性はその倍以上の背だった。


 腕も長く自身の膝下まで伸びている。


「コイツ、なんなんだ……」


 これは何なんだ、訳が分からない。


「初めまして桐島レイ」


 目の前の女性が発したとは思えないかん高い声がレイに届く。


 初対面なのになぜ自分の名前を知っているのかレイは困惑。


「わたしはカースケイド。単刀直入に言うけどレイ、あなたは……いやあなた達かな、あなたがいた世界とは別の世界に召喚されているわ」


 カースケイド? 異世界? 召喚?


「あんた誰だ? 言ってることが全く理解できないんだが」


「理解する、しないは関係ない。もう起こってるから。勇者召喚の秘法であなたは勇者として召喚されるの」


 勇者召喚て何だ?


「召喚された勇者はそこで勇者の力を得る」


「なぜそんな事をする……なんの為に?」


「それは召喚されてから分かるわ」


 レイはカースケイドの言う事の意味が分からなかった。


「あんたも何者なんだ?」


「それは今はどうでもいい事。問題なのはあなた」


「俺?」


「今あなたは召喚途中、わたしはガイダスの隙をついてあなたに接触してるの」


「ガイダスって?」


「わたし、ガイダスが大嫌いなの」


 は???


「まるで話が見えない」


「よく聞いて、あなたは勇者として召喚される。けれどあなたは勇者の力を得ることは絶対にない」


「そうか」


 だから何だと言わんばかりのレイの返答。


「なぜならわたしがあなたを愛しているから、そしてガイダスもわたしの事を嫌いだから」


 愛してる???


「それで?」


「これはガイダスに対するわたしからの嫌がらせでもあるの」


 ガイダスって誰なんだ?


「はあ……」


 レイの力のない返事。


「だからレイ、あなたにはわたしの呪いをあげる。わたしがあなたを呪ってあげるわ」


「愛してるとか言ってたが、愛してる奴を呪うのか」


「違う、呪いがわたしの愛だから」


「なぜ俺なんだ、他にも適した奴がいるのでは?」


「いない、あなたは憎んでいるはず、すべてを。裏切られてすべてを許せない。あなたの仄暗い魂は呪いにうってつけなのよ」


「俺は呪われたくない」


「大丈夫、もう呪われてるから」


「何が大丈夫なんだよ!?」


「わたしの呪いがあなたを守るわ」


「いらない、俺を元の世界に帰してくれ」


「それはわたしの力では無理」


では? つまり他に方法があるのか」


「あるかもしれないし、無いかもしれない。自分で探すしかないわね。でもわたし、あなたを好きだから帰ってほしくないのだけれど」


「俺は好きじゃない」


「片想いはつらいわね」


 巨体のカースケイドがしゅん、としているのは奇妙な光景であった。


「ふざけてる場合じゃない」


 カースケイドがチラと上に頭を向ける。


「あらあら、あなたそろそろ召喚されるわね。じゃあね、もうこうして会うことは無いかもしれないけど」


 カースケイドがその長い右腕をレイに向かって振っている。


「待て、俺に何の呪いをかけたんだ」


呪いは長く続いたほうが良いと思わない? あなたの魂には不死の獣の呪いをかけたわ」


 不死の獣だと。


 するとレイの周りに光の円がいくつも浮かび上がる。


「わたしのいがあなたを殺さない、ただ……その代わり常に飢えと渇きに苦しめられるけどね」


「おい待てよ、何言ってんだ!!」


 円の光は徐々に強さを増していきレイの目をくらます。


 そしてすべてのものが光に包まれる。

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呪縛物語 むらびとA @murabito4649

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