第三章 本条家の呪い

第20話 紫色の痣

ポツリと寝室の天井がオレンジ色に灯す。豆電球のまま僕と万理は裸体で互いの快楽を満たしていた。40を前にした大人。当然高校生の頃と比較すれば老体だ。しかし、万理は違う。乳房はちょっぴり落ちたが、あとは完璧な妖艶さを放っていた。スベスベして柔和だ。まるで骨格だけ大きくなったようだ。対照的に僕はお腹周りに肉を付けている。筋力もゼロに等しい。中に入れて上下に揺らせば欲の汗が対等に溢れ出る。万理は嬉しそうに目を細めて僕を見る。喘ぐ彼女は限界まで僕の欲を満たした。つま先から鼻筋、左斜めに入った紫色の痣まで舐め回し揺らす。負けじと万理も僕の首や耳、つま先を舐め回す。激しくも優しく滑らかに逢瀬を重ねた。

再開して話をした僕らはそのまま流れるように行為に及んだ。知ってしまった僕らは禁忌を犯してしまった。わかっていたはずなのに。

血が繋がっているという事実を。

『共通点が多い』と万理は言っていた。確かに、あの階段で出会うこと以外に似てる点は沢山あった。勉強が好き、化学・物理が好き、読書が好き、朝飯は食べない、野菜が好き、人間関係が苦手、真面目で繊細、運動は苦手だけど好きである、映画より漫画派、そして、傲慢なとこまで。

「佐古ッ!」

「万理!僕っ!もっ!」

同時に息を合わせて痙攣した僕達は枯れた植物のように倒れ込む。何度白液を噴射したのだろうか。万理の顔から臍、中まで僕一色だ。当の僕も万理の透明液だらけ。

欲が収まった僕らは隣り合わせに抱き合わし、話を再開した。

「ねえ佐古」

「何」

「あたし達、やってしまったね」

「うん。ダメだとわかっていたのに」

「そうだね。でも、これも運命だったのかもしれない」

「運命?僕らが?」

「うん」

弛緩した万理は頬を上げて口を開いた。

「だって、あたしの母は17歳の時、佐古の母とあたしらの叔父と叔母のいる実家を離れて暮らしていたんだよ?」

情事を成した後に家族の話をするのは何だか気乗りしないが、耳を傾けるべき内容だ。

「つまり、万理の母は家出して新たな家庭を築いたと」

「そう。でも佐古の母が突然亡くなって、あたしらは地元に再び戻ってきた。まだあたしが1歳の時だけどね。佐古も」

「そうなんだ。全く知らなかった。1歳の時か…………」

万理が何かを思い出したのか視線を宙に向ける。

「そうそう。今日貴方に会いに来た理由はまだ他にあるの」

「え?僕らが従兄弟だったことや娘の花江ちゃん以外にも?」

「あたしね………」

今まで明るさを解き放っていた万理の気が重くなる。心臓の鼓動が早まる。

「死ぬんだ」

「へ?」

死ぬ?万理が?

「うん。具体的には、死にたい、が正しいかな?」

「は?へ?自殺?何?万理って鬱病を患っているの?」

「そう、かもしれない」

「どうして」

頭が追いつかなかった。こんなにも綺麗なのに。顔を見てハッと気づく。

「もしかして、その顔半分にある紫色の痣が原因?」

「これ?」

彼女は左斜めに入った痣を隠すように左手を被せた。

「ふふ。これは呪い」

「呪い?」

「かもしれない」

「かもしれない?一体どういうことだい?いつから?何があったの?」

「ふふふ。そう焦んないで」

不敵に笑う万理は僕の唇に指先を付ける。以前の万理にはなかった得体の知れない嘆きがようやく伝わった。彼女はこうしている間にも死の誘惑に魅せられていた。

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