幕間 各話怪題

 今年に入ってから少しずつ書き進めている『幻視者の宴』。今後のネタ被り等を防ぐ個人的な備忘録的として、発想やイメージの基にしたものなどを、各話解説っぽく記していきます。

 

■ 第1話 ロールシャッハ

 話の筋そのものは十年以上前に発想したもの。朝のニュースで通り魔事件の報道を見ていて、夜道を帰っている時に思いついたはずです。女性を刺した血を吹いて模様を作るというアイデアは、高橋葉介氏の短編マンガ「紅い蝶」からです。ただ向こうが非常に耽美的で幻想的な描写なのに対して、拙作はどうも即物的な気が……。


■ 第2話 首風船

 この作品は新紀元社・主催の第3回幻想と怪奇ショートショート・コンテストに応募したものです。結果としては一次選考で落選。友人たちに読んでもらった所、思いのほか好評だったためアップした次第です。

 

 読んでもらった友人たちからは、畏れ多くも「安倍公房みたい」「筒井康隆みたい」との評をいただきましたが、筆者個人として意識したのはやはり高橋葉介氏の作品でした。出来上がった作品にはそこまで残っていませんが、特に『夢幻紳士 怪奇編』の「夜会」という作品を強くイメージしました。


 「首風船」というイメージそのものは、2021年の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて実施されたプロジェクト「まさゆめ」の巨大な顔のバルーンから。伊藤潤二氏の名作『首吊り気球』とイメージが重なる部分がありましたが、拙作とは描く恐怖の対象が違うのでまあ良いかと……。少女に口づけされ吹き込まれた息で顔が膨らんで散るというイメージは、元々山田風太郎の忍法帖や必殺シリーズのようなものが書きたくて色々考えた殺し技の中の一つでした。


■ 第3話 顔のない飯 前編・後編

 「顔のない眼、」「顔のない男」などなど……。「顔のない~」という言葉の響きが好きで、タイトルに使った次第です。


 「ファストフードって何か味気ないな」とか「作った人の顔が見えないな」なんていう主人公の感情は、地方から上京した直後の筆者の実感でした。先日、山田正紀氏の短編「メタロジカル・バーガー」を呼んだ時に、上京当時の感覚をふと思い出して筆を執りました。そこへ「顔のない~」から連想して小泉八雲の『日本の怪談』に収録されている「むじな」の要素を足しました。主人公の名前が伊坂紀明なのは舞台となるから、ナジム・バーガーはから取りました。


■ 第4話 恋人は猫である

 妖怪をモチーフにした小説を書くにあたって、友人や家族に「妖怪と聞いて思い浮かぶのは何?」とアンケート調査を実施しました。すると友人のひとりから「猫娘」という返答が……。妖怪というよりは『ゲゲゲの鬼太郎』の登場キャラクターな訳ですが、「化猫は女に化けることが多いからこれも猫娘じゃ?」ということで押していきました。


 タイトルと序文は説明不要と思いますが、夏目漱石『吾輩は猫である』のパロディです。手塚治虫氏の漫画で好んで取り上げられる「動物が女性に変身」というモチーフが好きで、今回意識してみたのですが、絵で表現する漫画と違い、文章で表現する小説では艶かしさの描写には非常にテクニックがいることを痛感しました。


 猫が女に化けた寝子さんを寿司屋に連れていく展開は、バラエティー番組『太田上田』でされたトーク「デートするならろくろ首か猫娘か?」が面白かったので、それを下敷きにしています。というより、このエピソードから前後を発想していきました。

 


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