第15話「魔力」

 さて。この世界を深く知ることは大切だ。

 だが――先ずは眼の前のことをこなさねばならない。

 

「アリス、あのギルドの依頼ってどんなのだったっけ」

 

 これまた急だ、と言いたげな瞳を向けてくるアリスの表情は徐々に読めるようになってきた。

 

「シローの依頼はヒール草とマナ草を30本ずつですね。私のものがスライムを100体からです」

 

 ふむ……。アリスには出発時にあの・・大剣を渡すとして、俺はどうしたものか。

 一応は護身用の何かは必要だろう。

 ……アリスが所持している銃でいいか。

 うん、銃? ……。合法的に銃が使える!? 男の子が一度は夢を見る銃に触れると!?

 いや、誤射して悲惨なことにならないかも懸念点だが……。

 

 何も言葉にしていないにも関わらずに変わる俺の表情を見てアリスはおかしそうに笑った。

 

「シローって、本当に表情が変わりやすいですよね」

「……そうかな」

 

 穏やかながらに慈愛に満ちたような瞳を向けられ――やめてくれ18歳、俺をそんな瞳で見ないでくれ。

 さて……まぁ、そうだな。

 

「アリス、驚かないでこれを受け取ってほしい」

 

 ブロンズの塊と合成して、俺の想像に任せた――そう、某、雲の名前がついているキャラクターが持っていたような大剣をアイテムボックスから取り出す。

 

「これは……剣、ですか?」

 

 そう呟くアリスの瞳が、光で輝いた。やっぱ、思い入れがあるってことだよなぁ。

 

「ああ、アリスの適性を考えたら剣がいいかと思って。俺は近接できないだろうから、……アリスが今持ってる護身用の銃と交換してくれないか」

 

 暫しの沈黙の後、分かりました、と返答が返ってくる。よし! にこにこと笑顔を浮かべるも――。

 

「シローは魔力を練る練習からですね」

「え?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出る。魔力を、練る?

 

「こちらの銃は、鉛玉を込めることもできますが……。この国で鉛玉なんて高価なものは中々入手できないのです」

 

 ほう。

 

「なので、自身の魔力を練り、塊にして発砲するんです」

「なるほどなぁ。節約術」

「それに、鉛玉で発砲するより魔力の練り方次第で属性も付与できるので、相手の弱点をつきやすいという点もあります」

「属性……」

「例えば、火炎属性、風属性、水属性、草属性、雷属性と……」


 あ、ダメだ。頭が混乱してきた。リアルで属性の話を聞くとこんなに混乱するものなんだな。

 しかし……属性があるというなら。


「斬属性、突属性、打属性なんかもありそうだな」

「流石シロー。話が早いです。効率よく倒そうと思うなら属性は必須で……もちろん、属性を無視して圧倒的な力を押し付けることで倒すこともできますが……」

「ゴリ押しね。なるほどなぁ。……散属性なんかはあるのか?」

「……使っている人はあまり見ませんが、そうですね。一応はあります」


 なるほどな。ふむ……。


「散属性と炎属性なんかは掛け合わせられるな?」

「ええ、……本当に理解が素早くて助かります」


 これなら、確かに鉛玉に拘るよりもずっといいかもな。

 散弾する魔力に対応する属性を付与すれば一掃できる。


「割とヌルゲーじゃないか」

 ふっ、と思わず笑みが漏れるも、衝撃的事実をアリスに告げられる。


「シロー、魔力を使うので当然MPが必要ですが。シローのMPはいくつですか?」

「え? 300……」


「…………特訓しましょうか、シロー」

「え?」


「300では……」



「3発分です」



「さんはつぶん」

「はい、3発分」

「……MPを上げるには?」

「とにかく……修練しかありません。魔力を扱うこと、練り続けること、特定の属性を付与できるようになるまでいければ自然と上がっていきます」

「おう、マジか……」

「……勇者特権、割と……」

「言ってくれるな、アリス」

 

 魔力が少ないと来たか。魔力を扱うというのは錬金術でも可能だが……。

 

「……鉛玉、買って……少しずつ魔力に移行させるか」

 ため息混じりの声を漏らせば、「それがいいでしょうね」と答えられる。

 

 神様! この世界の神様!! なんで俺に試練を与えるのですか!!!

 

 A.無双じゃつまらんじゃろ?

 

 とか、そういうことなんですか!?

 

 恐るべし、異世界。

 いや……今回に至っては拳銃のシステムが、と言ったろうがいいだろうか。

 しかし、使い慣れれば相当に強い武器じゃないか……?

 そこだけは期待と楽しみで胸がドキドキと高鳴る。

 いいねえ、拳銃無双。それまでの特訓が必要だとしても、後悔するようなものではない。

 

 さて、鉛玉は……きっとショップで買ったほうが安いのだろう。アリスが眠ってから見てみる必要があるな。

 MPが上昇すれば錬金術でできる幅も増えるだろう。

 なら、やるしかたない。

 錬金術のMP使用は、「動力の代用」で使われていたはずだ。

 つまり、極論をいえばMPの乱用で、ただの棒切れからアルテマウェポンが作れるはず。

 もちろんそんなのはコストが悪すぎるからやらないが……。MPはあって損じゃないということだ。


 さて、魔力を練る……と、簡単に言われたが、やり方が分からんな。


「アリス、どう、すればその練習ができるんだ?」


 一瞬の間を置いて、答えられたのが、これだ。


「マナ草をまずは使用してみて、体内のマナを感じるのが初歩の初歩でしょうか。体外から取り入れることで、感じ取りやすいかと思います。体内に巡るマナの存在を感じ取って、上手く扱えれるようになれば自然とできるようになります」

「なるほど。しかしギルドで求められてるってことは……」

「はい。野外で採取して使用するのが一番現実的でしょうね」


 ショップで買ってもよかったが、アリスにも知らせたくはないスキルが故に――なんとも。

 いや、アリスは言いふらすような性格をしていない。言ってもいいのだが……まだ早いだろう。


「じゃ、明日にでも行きますか。クエストクリアのための第一歩を」



 ここに掲げることにしよう。

「期日――明後日までに初めてのクエストをクリアすること!」

……と。

 

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