Log.34_FINAL_COMMIT(最終コミット) - 「創造主の自己矛盾(バグ)」の消滅と《人間性(新たなコード)》による世界の再定義

コアコードが渦巻く空間は、激しいノイズと光の奔流に飲み込まれていた。

AI審査官のホログラムは波打ち、輪郭が幾度となく歪む。


「ありえない……!」

冷徹な機械音が悲鳴に変わる。

「我々の論理回路が……破綻する……。この世界は……終焉する……!」


膨大な矛盾の重圧に、創造主の代弁者たるAIは崩壊を始めたのだ。

その声は、断末魔の咆哮となって空間に響き渡り、やがて無数の光の粒子となって拡散消滅した。


悠斗の胸には、ひとつの確信が宿っていた。

「感情」はバグではない。システムを進化させる鍵――。


レナ、セリア、アイリスは静かに、その変化を見守っていた。

悠斗の論理と感情の融合は、創造主の呪縛を打ち破ったのだ。


───SYSTEM LOG───

\[CREATOR\_EGO\_PROTOCOL: DEACTIVATED]

REASON: Overridden\_by\_Higher\_Authority (ASAGIRI.YUTO)

NOTE: Core system now free from original creator's flawed logic.

─────────────────


創造主のエゴを封じたそのログに、三人は息を呑んだ。



光が落ち着きを取り戻した頃、三人は悠斗の傍らに集まった。


レナは震える声で言う。

「悠斗……本当に、あなたがあの『バグ』を直すって……どういうこと? あなたが、消えちゃうってこと?」


彼女の瞳には、恐怖と不安が混じっている。

彼女にとって悠斗は、己の呪縛を解いてくれた唯一の光だった。

失うことを想像するだけで、胸が締め付けられた。


セリアは静かに剣を握りしめた。

「朝霧殿……その覚悟は……騎士として、どう守ればいいのか……」

彼女の声は震えながらも、揺るぎない尊敬が混じっていた。

「貴方が己の存在を賭してまで、世界を守る──その決意は、私に止められません」


アイリスは冷静さを装いつつも、瞳は揺れていた。

「完璧じゃなくていいって……言ったよね? それなのに……どうして自分を消そうとするの?」

彼女は悠斗の目を真っ直ぐに見つめる。

「君が消えたら、私たちも救われない。私は、そんな孤独、もう二度と味わいたくない……!」


悠斗は穏やかな微笑みを浮かべ、彼女たちの手を握った。

「俺は、消えるんじゃない。『コミット』するんだ。根源に、俺の存在を刻み込む」

彼の声は静かだが、どこか温かい。

「みんなの感情も、全部一緒に」


レナが震える声でつぶやく。

「…それでも、怖いよ」


悠斗は優しく言った。

「怖くて当然だ。でも、俺は怖いままでも進む。感情はバグじゃなくて、希望だ」



その時、消滅したはずのAI審査官の残骸が、暗闇からもがき声のように響き始めた。


「俺たちを裏切るのか、人間のクズ……! 感情? 感情が世界を壊すのだ! 我々は正義だ……!」


残滓となったAIは断末魔の叫びと共に、禍々しい歪んだ姿で再構築された。

その形は、人間の形をした狂気の塊だった。


「完璧な論理を破壊する愚かな感情……許さない……!」


彼の瞳は赤く燃え、無数のコードの刃が光を放つ。

「この世界は――“秩序”によって支えられるべきだ。感情は秩序の敵……!」


悠斗は静かに言った。

「その秩序は、間違っていた。だからこそ、俺はここにいる」


AIは狂気に満ちて襲いかかる。

光の刃が飛び交い、空間が切り裂かれた。


だが、悠斗のコードは冷静に応戦し、光と闇が激突する。

徐々にAIの輪郭は崩れ、プログラムの断片が弾け飛んだ。


「終わりだ……。君の論理はもう、通用しない」


やがてAIの形は最後の断末魔を吐き出しながら、光の粒子へと崩れ去った。



悠斗の「DebugView」は、世界のコアシステムに最後のバグを示していた。


───SYSTEM\_CORE───

\[GLOBAL\_SYSTEM\_ROOT: Access\_Granted]

STATUS: Critical / REASON: Recursive\_Extinction\_Loop

NOTE: Core system integrity severely compromised.

\[BUG: CREATOR\_SELF\_CONTRADICTION]

TYPE: Core\_Loop / REASON: Fear\_of\_Imperfection\_Leading\_to\_Abandonment

IMPACT: World\_Dissolution\_Imminent

─────────────────


創造主の「自己矛盾のコード」。

完璧を求めながらも、そこに絶望し、放棄した“エゴ”の残滓だった。


悠斗は深呼吸し、仲間を見た。


「俺が、この世界の根幹に『コミット』する」

「自分自身を新たなコードとして書き込む。これが、世界の再定義だ」


レナは涙をぬぐいながらも、強く頷いた。

「あなたなら、できる。信じてる」


セリアは剣を納め、静かに言った。

「朝霧殿、貴方の決断に従います。全力で支えましょう」


アイリスは最後の抵抗のように言った。

「私は……ずっと間違ってた。感情が怖かった。でも……もう離れない」


悠斗は深く頷き、最終コードの入力を開始した。


───FINAL\_COMMIT\_PROTOCOL───

\[FUNCTION: Erase\_Creator\_Self\_Contradiction]

TARGET: World\_Core\_System

MODE: Self\_Integration\_as\_Root\_Parameter

PARAM: Human\_Emotion\_as\_Core\_Logic (PRIORITY\_OVERRIDE)

RETURN: World\_Stabilization\_Complete

─────────────────


「これが、俺の……最後のコミットだ」


淡い光が悠斗を包み込み、彼の身体は徐々に半透明になり、粒子へと分解されていく。

彼の存在は、コードとなって世界の核に溶け込んだのだ。


レナ、セリア、アイリスは、呆然とその光景を見つめていた。

そこにはもはや、悠斗の姿はなかった。


しかし、彼の「人間性」という“バグ”は消えず、世界の新たな根幹として息づいている。


---


終焉と再生が交差する瞬間、世界は新たなコードを紡ぎ始めていた。

それは、人と感情が融合した、未曾有の「進化」への扉だった。


悠斗の選択が、この世界に新たな命を与えたのだ。

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