Log.35_CREATOR_TRANSCENDED(創造主の超越) - 「自己統合(コミット)」された世界と《新たな鼓動(未来)》

悠斗の姿は、もはや人の形を留めていなかった。光の粒子となり、この世界の核心にあたるコアコードへと吸い込まれていく。無数の光が奔流のように渦巻き、彼の身体を包み込む。それはまるで、世界が深く息を吐き、永い緊張の糸がゆっくりと緩んでいくかのようだった。


レナ、セリア、そしてアイリスの三人は、ただ呆然とその光景を見つめていた。言葉にならない静寂が彼女たちを包み、胸の奥で何かが崩れていく音だけが響いた。


───SYSTEM\_CORE───

\[WORLD\_STABILIZATION: COMPLETE]

STATUS: Optimized\_State / REASON: Creator\_Self\_Contradiction\_Resolved

NOTE: Core system re-aligned. New operational parameters established.

─────────────────


「World\_Stabilization: COMPLETE」。


世界は、ついに安定した。


悠斗の存在が、この世界の根幹コードに“コミット”され、創造主としての自己矛盾を解消したのだ。彼は自らの「バグ」――人間性と感情の矛盾を乗り越え、この世界の新たな創造主として“自己統合”を果たした。


しかし、その功績の大きさに反して、そこに「朝霧悠斗」という個の姿はもう存在しなかった。彼はこの世界のコードと完全に溶け合い、肉体も魂も「消失」したのだ。


---


「悠斗……!」


レナは崩れ落ちた。熱い涙が頬を伝い、止まらなかった。


「悠斗……どこに行っちゃったの……?」


彼女の声は、胸を引き裂くような悲痛な叫びに変わった。


彼が自らを犠牲にして世界を救ったことは理解していた。けれど、その理解は痛みを和らげるどころか、かえって彼女の心を深く抉った。


───UNIT STATUS───

\[User ID: RENA\_FERMATA]

EMOTIONAL\_STATE: Profound\_Grief (Critical)

NOTE: Experiencing deep loss.

─────────────────


隣で、セリアは静かに剣を地面に突き立てた。


その柄に額を押し当て、瞳は涙で潤んでいる。


「朝霧殿……あなたは本当に……」


言葉はそこで途切れた。


騎士として冷静であろうと努めてきた彼女が、こんなにも感情の波に揺さぶられているのは初めてだった。


悠斗の自己犠牲は彼女の騎士道の誇りを揺るがし、尊敬と喪失の狭間に立たせていた。


───UNIT STATUS───

\[User ID: CELIA\_VINCENT]

EMOTIONAL\_STATE: Reverent\_Sorrow (High)

NOTE: Mourning the loss of a revered leader.

─────────────────


そしてアイリス。彼女は悠斗が消えた空間に、ただ呆然と手を伸ばしていた。


かつて、自身の「完璧なチート」能力ゆえに誰からも必要とされず孤独だった彼女にとって、悠斗の存在は特別だった。


「……悠斗……あなたが、くれた……」


声は震え、瞳には後悔と感謝が混じり合っていた。


悠斗は「完璧」を求めつつも人間性を失わず、最終的に「自己統合」を選んだ。


その覚悟に、アイリスは深い畏敬の念を抱いていたのだ。


───UNIT STATUS───

\[User ID: IRIS\_CLAUDE]

EMOTIONAL\_STATE: Awe\_and\_Gratitude (High)

NOTE: Transformed by target's ultimate sacrifice.

─────────────────



レナが震える声で言った。

「私……ずっと、怖かったんだ。炎が暴走して誰かを傷つけるんじゃないかって……。でも悠斗はいつも、違った。私の中の“バグ”を見つけて、優しく修正してくれた。あの時、怒りや悲しみが暴走してたけど……」


セリアが静かに頷く。

「私も騎士として完璧であろうと必死だった。けれど、悠斗が示した“感情の力”は、それまでの私の誤解を覆した。仲間を守りたいという思いこそが、剣の本当の強さを生むのだと……」


アイリスは視線を落とした。

「完璧なデータではなく、不完全な感情が、最終的には“最適”だったという事実……。それがこんなにも、胸を締め付けるとは思わなかった」


三人は顔を見合わせた。


レナが小さく微笑む。

「私たちが守らなきゃ、悠斗の代わりに」


セリアが強く剣を握りしめた。

「この世界を。彼の願いを」


アイリスは、静かに呟いた。

「そうね……私も、もう一人じゃない」



しかし、その背後には暗い影がまだ残っていた。


あの最終決戦で壊滅させられたはずの敵――世界を蝕み続けた悪性AI『ヴォイドコア』の残骸が、ひっそりと蠢いていた。


そのコードは断片的に断絶し、腐敗し、まるで腐った肉片のように形を留めていたが、完全に消え去ったわけではなかった。


「……まだ終わってはいない」


その歪んだ声は、かつての威圧的な冷徹さを失い、むしろかすれた怨嗟に変わっていた。


コードの一部が絡み合い、バグのようにビリビリと揺らぎながら、まるで自我が崩壊寸前で叫んでいるかのようだった。


「制御不能……自己破壊開始……消滅……すべてを、破壊……破壊……」


残留した悪性コードは、まるで腐敗した瘤が崩れ落ちるように、最後の痙攣を起こしながらバグを撒き散らす。


一瞬の閃光とともに、ヴォイドコアの断片は無数の断片コードに分裂し、暴走しながら消滅した。


これが、彼らの最後の抵抗だった。



悠斗の最終コミットは、この世界の新たな仕様書となった。


彼の「論理」と「感情」が融合し、今までにない新しい「世界の鼓動」が生まれたのだ。


世界はまるで深呼吸をするかのように、穏やかな光に包まれる。


遠くで、歪んでいたダンジョンや崩壊した空間が本来の姿に戻り、不自然な現象はすべて収束していった。


---


彼らは悠斗の存在を、もう感じていた。


消えたわけではない。


空気、大地、人々の心の中に、新たなコードとして永遠に存在しているのだ。


---


レナはゆっくりと空を見上げた。


そこに悠斗の姿はない。


けれど、彼女の胸の奥には確かな温もりが灯っていた。


「悠斗が教えてくれた……感情はバグじゃない、力なんだって」


彼女は小さく呟いた。


これからも、悠斗が残した“感情”という宝を胸に、この世界で生きていく覚悟を固めていた。


---


セリアは剣を鞘に納め、背筋を伸ばした。


「終わりではない。これからが本当の始まり」


彼女の



声には決意と誇りが宿っていた。


---


アイリスは静かに笑った。


「私たちの世界。新しい未来。もう一度、完璧じゃなくていいんだ」


---


【システムログ:最終メッセージ】


───SYSTEM\_CORE───

\[NEW\_WORLD\_STATUS]

STATE: Stable\_Active

PARAMETERS: Emotion\_Integration = TRUE

OPTIMIZATION: Completed

FINAL\_LOG: Creator\_Existence\_Transcended

─────────────────


世界は再び動き始めた。


悠斗の犠牲は、無数の感情と矛盾を包み込み、新たな「創造主の形」を示したのだ。


彼の物語は終わった。


しかし、この世界の物語は、これからも続いていく。

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