第3話 カツアゲと魔法の授業
下校中――現在、不良と呼ばれる連中に囲まれている。
「大人しく金を置いていけば、手は出さねぇよ」
「入学式なので、学校にお金は持ってきてませんけど」
「そうか。じゃあ、お前には用はないな」
おっ、意外と話がわかるタイプの不良か?
「が、ストレス発散には付き合ってもらおうか」
ですよねー。そんな奴らだから不良なんて呼ばれるんだよな。
そのうちの一人が、右手から奇妙な紋様を浮かべ、そこから小さな火を出す。
すると、別の二人が俺の腕をつかみ、壁に押しつけて身動きを封じた。
「さあ、じっくりいたぶってやるよ」
つかまれている腕のワイシャツを捲られ、火を近づけられる。
じわじわと熱が伝わり、恐怖が込み上げる。それと同時に、魔法をこんなことに使う怒りも。
そのとき、不良の背後から勢いよく水がかけられた。俺にも容赦なく。
「何やってるのかな〜? 君たち」
その声を聞いた瞬間、不良たちの体がビクリと震え、俺を押さえていた手も離れた。
「な、なにもしてませんよ」
声がうわずっている。さっきまでの威勢はどこへ消えたのか。
火を出していた不良の後ろには、警察官のような制服を着た美しい女性が立っていた。
ショートカットの金髪に、正義感を感じさせる赤い瞳が印象的だ。
「ほんとかな〜?」
ニヤリとした表情で彼女が問いかける。
「おい、な? 遊んでただけだよな?」
不良の一人が、俺に同調を求めてくる。そんな不良に容赦なく、人差し指を向け。
「こいつらにカツアゲされてました」
「‥だそうだけど?」
その一言で、不良たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
女性はそれを確認すると、俺のほうに近づいてきた。
「大丈夫? ケガはない?」
座っている俺に手を差し伸べてくる。それを取って立ち上がる。
「全身びしょ濡れなこと以外は、大丈夫そうです」
「そ、それはごめんなさい」
彼女は気まずそうに顔を背けた。
「とりあえず、助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。最近は、魔法による犯罪も増えてるから、気をつけてね」
そう言って彼女と別れたあとは、特に問題もなく一日が終わった。
――そして、翌日。魔法の授業中。
「魔法が開発されて、今年でちょうど千年になる。専門家の中には、魔法の開発者の魂が現世に蘇ったという説を唱える者もいる」
千年かぁ。ここまで来ると、逆に実感が湧かなくて驚きもしないな。
ところで、その専門家、何者だよ。マジで蘇ってますけど。
「千年前の魔法は、体内の魔力を直接体外へ放出するのが難しく、自身の魔力を使って大気中の魔力を引き寄せ、魔法を発動していた。だが、人類が魔法を使い続けてきたことで、肉体が進化し、いまでは容易に魔力を体外へ放出できるようになった」
なるほど。千年も経てば、人間の体も進化するってことか。
そのとき、一人の生徒が手を挙げて質問した。
「教科書には大気中の魔力のほうが密度が高いと書いてあるんですが、どうして自分の魔力を使うんですか?」
「いい質問だ。体内の魔力は、自分の身体によって生成されている。つまり“自分に最も適した魔力”なんだ。だから、自身の魔力を使う方が安定して魔法を発動できるんだよ。もちろん、状況によっては大気中の魔力を使うこともある」
質問した生徒は納得したようにうなずき、ノートにメモを取り始める。
「ちなみに、容易に魔力を体外に放出できるとはいっても、こうして魔法陣を浮かべて“魔力の出口”を作ってあげる必要がある」
そう言いながら、先生は赤く光る不思議な魔法陣を浮かび上がらせた。
と、ちょうどそのとき、チャイムが鳴り、授業は終了となった。
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