第2話 未来での魔法の使い道
目を覚ますと、目の前に見知らぬ女性と男性がいた。どうやら、俺はその女性の腕に抱かれているようだ。
女性は美しい青髪を長く伸ばし、曇りのない碧眼を持つ、優しげな雰囲気の人だった。男性は、燃えるような赤い髪と目をしている明るい印象を受ける人だ。
これは生まれ変わりに成功したってことで、いいんだよな?まさか本当にできるとは
そんなことを考えていると、女性が口を開いた。
「この赤い瞳は、あなたと同じね」
「この綺麗な水色の髪は、君と同じじゃないか」
「あなたの名前は、双葉遥斗(ふたば はると)よ」
なるほど、この人たちの子どもとして生まれ変わったから、俺の見た目も変わっているのか。 それにしても、家の造りも前世とは全然違う。前世は木や石でできていたけれど、今の家は見たこともない素材が使われている。内装も随分と洗練されていて、まるで別世界だ。
そのまま、俺を抱いたまま母親が別の部屋へ移動する。移動先の部屋は、前世と比べものにならないほど綺麗だった。両親はソファに座り、俺は母親の膝の上に抱かれている。
ふと目に映ったのは、箱のような物に人が映し出されている光景だった。
「あれはテレビって言うのよ、遥斗」
なるほど、あれがテレビというものか。魔法で作られたものではなさそうだな。
すると、すぐに衝撃的な映像が流れた。大勢の人々の中で、一人の男が右手から奇妙な模様を浮かび上がらせ、そこから炎を出して人々を襲っている。
それに対抗するように、杖を持った女性が、同じように模様から岩を発生させ、相手にぶつけていた。
映像には謎のぼかしが入っていて直接的な表現は避けられていたが、確実に死人が出ているのは分かった。
「いつになったら戦争は終わるのかしらね」
「そうだな。遥斗も戦争に巻き込まれなければいいが‥」
戦争‥? 形式は違うが、あれは確実に魔法だ。まさか、俺が作った魔法が戦争の道具に? 嘘だろ。人のために作ったはずの魔法が、こんな風に使われているなんて。
「大丈夫?遥斗。ごめんね、嫌なものを見せちゃったね」
母親は優しく俺の頭を撫でてくれる。たぶん、ショックを受けて顔色が悪くなったのだろう。
だが、人を助けるために作った魔法が人を殺す道具になっているという現実は、その優しさでは拭いきれなかった。
――あの日から十三年が経ち、俺は中学生になった。あれ以来、魔法への関心はすっかり失われてしまった。けれど、中学校からは魔法の授業が始まる。
この国は五つの壁によって分かれており、“禁術”と呼ばれる魔法が記された本を巡って争いが起きているらしい。その本には封印が施されていて、今は使えないらしいが、一部の犯罪組織によって封印されていない禁術の本が密輸されたりしているらしい。
――星稜中学校の入学式が終わり、教室に入る。クラスメイトたちはそれぞれの席に着いていく。俺も自分の席に座り、先生が来るのを待った。
すると、隣の席の生徒が話しかけてきた。透き通るような白髪を腰まで伸ばし、紫紺の瞳をした美しい少女だった。
「一年間よろしく。私は綿月夜宵(わたつき やよい)」
「こちらこそ、よろしく。俺は双葉遥斗」
「中学校から魔法の授業が始まるらしですね! 楽しみじゃないですか?」
「そっ、そうですねー。楽しーみです」
しまったー。いきなり魔法の話題を振られて、動揺して変な返事をしてしまった。 これじゃあ、いわゆる陰キャとして認識されてしまう。この時代は、なんとも面倒くさい概念があるらしい。 ちなみに、陰キャのさらに下は“クソ陰キャというらしい。
「そうですよね、私は“みかんの皮を剥く魔法”を使ってみたいんです!」
この子はきっと“陽キャ”ってやつなのだろう。それに、見た目によらず変な魔法‥ん? みかんの皮を剥く魔法? なんだそれ、しょうもないというか‥うん。しょうもない。
「そっ、そんな魔法もあるんだ」
そんな他愛もない話をしていると、教室の扉が開いて先生が入ってきた。
「今日からこのクラスの担任になる、本多誠人(ほんだ せいと)だ。今日はこれで下校だ。ということで、解散!」
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