黄昏の虹の墓標

ω(オメガ)

静寂が支配していた。





俺の足元には血みどろでもはや物言わぬ屍となったαとβが転がっている。そしてここは死体と広がる血しぶき、そして粉々に割れた青い板っ切れの破片の山の他には何もない真っ白な空間となっていた。





そんな中、落ち着いた女性の声がする。





?「あなた様は……エルビス様……とお呼びすればよいのですね」


俺「貴様もαやβの仲間か!」


俺がスレッジハンマーを再び構える中、女性の声は続く。


?「私はω(オメガ)、この世界の最高管理者です」


俺「ならお前も死ね」


俺はスレッジハンマーを天空に向けて構える。





ω「まず……エルビス様の行動にお礼とお詫びを申し上げます」


ω「本来、αとβの始末は私がつけるべきことでした」


ω「αとβの始末を付けて頂いた事、深く御礼申し上げます」





虚空からポン、と柏手を打ち鳴らす澄んだ音がした。その途端、αとβの死体、散らばった血しぶき、青い板っ切れの破片の全てが光の渦になり消えていった。俺の周囲には何もない真っ白な空間が残る。


そしてそこには、同じく上品な服装を着た長髪の女性が三つ指をついて頭を下げていた。不意に手が軽くなる、手に持っていたはずのスレッジハンマーがいつの間にか消えていた。殴りかかろうにも手に力が入らない。





ω「エルビス様は極めて強い”意志の力”を有しています」


ω「他者にも意志を促し、管理者空間で物体を生み出せるほどに」


ω「ですが、私の話を終えるまで恐れ入りますが手をお収め下さい」





ωは頭を下げたまま俺に語り掛ける。


ω「この度、αとβがエルビス様やアン様、そして御息女に行った仕打ち」


ω「このωより深くお詫び申し上げます」


ω「死したる者は蘇りません、アン様も、お二方の御息女も」


ω「このω、いかなる仕打ちも受けましょう」


ω「命をよこせというのであれば今すぐ差し出します」


ω「空位となったα、β、ωの座もお譲りいたします」





俺「ωさんよ」


俺「俺ぁもう欲しい物はねぇ、全て失っちまった」


俺「……」


俺「いや、二つだけ、ある」





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