三人目

?「おや、しばらく見ていなかったのですが、どうやら諦めた様ですね」


俺「テメェの声さえなければ最高の最後だったんだがな」





久しぶりにβの声がする。





俺「悪いな、俺たちはあんたの思い通りにはならねぇぜ」


俺「悲劇の主人公にも、モブにもならねぇ!」


β「そういう事は迫りくる外壁をどうにかしてから言うものですね」





そのとき、おもむろにアンが口を開く、凛とした声でβに語り掛ける。


アン「いいえ、ベータさん」


β「!?」


俺が横を見ると、キッと上空を見据えるアンがいた。


アン「エルビスさんの言う通り、私たちはどちらにも与しません」


俺「アン!」


アン「エルビスさん、ついてきてください」


俺「え?」





アンは俺を引っ張り歩き出す、二人は郊外の俺たちが旅を開始した場所、主人公が立ち入ることが予定されていなかったために作りが適当になっていたエリアの一角まで俺を連れて行く。





β「まさか!」


アン「はい、そのまさかです。私たちはあなた方の手では死にません」





アンの前には地面の穴がある。





昔、俺とアンが旅を開始した頃、まだアンがパン屋と呼ばれていた頃。アンが落ちかけた穴だ。穴の向こうは地中ではなく、真っ白な虚空が広がっている穴、おそらく手抜きの世界に開いた、「外の虚空への穴」だ。





β「ま、まさか……グリッチホールが放置されたままだったとは……」


β「αの手抜きにも程がありますね……後で対処しましょう」


アンが言葉を遮る。





アン「いいえ」


アン「あなたに”後で”はありません」


アン「私たちは今この場でここから身を投げます」


アン「あなた方が私たちを殺すことはできないのです!」





β「いかん! そこから落下したら管理者領域に立ち入られる!」


β「そうはいきません!」


明らかにβが狼狽している。





β「今すぐあなた方を消去します」


β「ω特権許諾問い合わせ開始、内容:キャラクター消去、人数:2名……」





βが何かの操作を試みようとしている!





だが、全ての時間が静止した様な中。


アンは俺に微笑み、口づけして


そのまま


音もなく穴に落ちていった。





俺「アーーーーーーーーーーン!!!!!」


アンの後を追う様に俺も真っ白な空間に落下していく。


β「ω特権取得、キャラクター消去開始! キャラクター消去確認!」


目の前を落下するアンが大小二つの光の渦になって消えていく……。





……


…………


………………





真っ白な空間があった。


そこには、二人の人物がおり、青く光る無数の板っ切れが浮かんでいた。


二人の人物は、極めて上品な容姿をしており、俺を見て狼狽していた。


間違いない、こいつらが「α」と「β」だ。


青い板っ切れには無数の文字と俺たちがいた世界の風景が投影されている。


そして「β」の前に浮かんでいた青い板には文字が投影されていた。





[beta(omega)]#delete_user --immediately --flag:glitch=1 --count:2


*** D E L E T E - U S E R ***

Warning : OMEGA privilege command.

Deleted character list

-----------------------------------------


01:

ID : af9e-dd30-c47b

age : 19

sex : Female


02:

ID : #Pending_Assignment

age : N/A

sex : Female


...Deleted.


-----------------------------------------





狼狽したβが叫び声の様に疑問の言葉を発する。


β「何故ですか! の消去は問題なく行えたはずです! 何故!!」





俺は目の前の二人分の消去者リストを見る。一人目は年齢が19歳の女性、間違いなくアンだろう。もう一人……IDは#Pending_Assignment(未定)、年齢N/A(該当なし)、性別のみが女性と分かっている人物……。





……俺は理解した……理解したくなかった。





確かにβは「」消去したのだ





性別「女性」……娘……だったのか……。





奴はを……だから「」の俺は助かった……。





…………





……





てめぇらだけは許さねぇ!!!!!!





脳内の俺はαとβを殴り倒すことを一心に考えた、そしてまるでそれに応えるかのように俺の手にはスレッジハンマーが握られていた。俺は躊躇することなくαとβ、そして周囲の板っ切れに対してハンマーを振り下ろしていた。





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