完璧な密室殺人のはずだったのに!

@YoshiAlg

完璧な密室殺人のはずだったのに!

 俺はミッシ・ツー。現在、俺をゆすって金銭をせびっている、ユス・リーを殺すための計画を練っている最中だ。ひとまず、ユスをとある豪華客船に誘い出すことには成功した。あとは、どうやってバレないように殺すかだけだ。

 だが、どうやって厳しいセキュリティーを潜り抜けて、凶器を持ち込むかが問題だ。それに、同じ船にあの名探偵、タン・テーが乗るらしい。彼の目をごまかすのは、一筋縄ではいかないだろう。

 さて、どうするか。


「お困りですか……」

「誰だ!?」

「あなたの困りごとを解決しましょう」

 そんなとき、俺の目の前に神様が現れた。俺は願った。完全犯罪を成し遂げれば、きっとタン・テーも俺を捕まえられない。

「頼む、どうにか凶器を船の上に持ち込ませてくれ!それから、完璧な密室殺人を実行したい!」

「凶器が必要なら、船の上であなたに拳銃を差し上げます。密室殺人を望むなら、殺人が終わった後で、出口をすべて塞ぎましょう」

「本当か!」

 俺は思わずガッツポーズをしながら、殺人計画の細部を詰めていった。




 さて、計画実行当日。俺がユスと同じ豪華客船に乗り込むと、自分の部屋に拳銃が置いてあった。神様が準備してくれたのだ。

「ククク、これでユスのゆすりから解放される!」

 俺は人が少ない夜の時間帯を狙い、ユスの部屋に行く。鍵は開いていた。

「だ、誰だ!」

「ユス、死ね!」

 俺はユスを射殺して、部屋を立ち去った。


 しばらくたってから念のためもう一度ユスの部屋を訪れたが、鍵がかかっていた。俺は完全犯罪の成立に笑みが止まらなかった。

「クックック、まさかタン・テーも、神様の助けを借りただなんて思わないだろう……」




 しばらくして、ユスの友人がユスの死体を発見したようだ。俺はその時間帯、タン・テーと話し込んでいて完璧なアリバイがある。万が一にも、心理的密室殺人を疑われることはない。

 そのあと、タン・テーは捜査を始めたが、俺のトリックが見破れるわけがない。俺は悠々と過ごしていた。




「犯人がわかった。全員を部屋に集めてくれ」

 タン・テーがお約束通り全員を集めたのは、死体発見の翌日のことだった。俺は余裕の顔でタン・テーの待つ部屋に向かう。


「犯人は、お前だ、ミッシ・ツー!」

「俺が犯人?冗談よしてくれよ、探偵さん。何か根拠はあるのか?」

 何か俺が犯人に指名されてしまったが、俺は必死にとぼける。大丈夫だ。トリックは絶対にバレない。


 俺の挑発に、タン・テーが推理を述べる。

「まず、殺人があったというのに、お前は不自然なほどに落ち着いていた。普通、知人が殺されたかもという話を聞いて、呑気に待っていられるか?」

「言いがかりだ!」

 確かに、俺の行動は不自然だった。それは認めよう。だが、所詮は難癖程度のこと。これで逮捕されるわけがない。


「次に、お前が夜、ユスの部屋に向かう姿を見たという証言がある。それも、二度だ」

「知り合いなんだから、会いに行って何が悪い!」

「おや?あなたはユスにゆすられていて、仲が非常に悪かったという話を聞きましたが?」

「か、金をせびられてたんだよ!」

 さすがは名探偵。俺の動機を当ててくるとは。だが、ここまでだろう?


「極めつけの証拠はこれだ」

 タン・テーの言葉とともに、プロジェクターに映像が映し出される。俺が拳銃を海に捨てている、防犯カメラの映像だ。

 俺はその映像を見て、一瞬ひるんだ。だが、まだ言い逃れできる。

「お、俺は、拳銃を見つけちまって、怖くなって捨てたんだ!」

「普通、拳銃を発見したら係員に知らせるか、せめて見ないふりをしますよね?」

 苦しい言い逃れだった。ギャラリーの目が、俺が犯人だと睨んでいる。仕方ない、ここで切り札を使うとしよう。

「そもそも、俺がどうやって拳銃をこの船に持ち込んだって言うんだ?それに、密室のトリックは?俺にこの犯行は不可能だ!」


「あれ、現場が密室だったって、私言いましたっけ?現場には第一発見者以外、誰も近づけてないはずなんですが」

 ヤバい、墓穴を掘った。でも、俺の言い分は反論されてないはずだ。

「へっ、名探偵様が論点ずらしか?みっともないぜ。俺にこの犯行が不可能だって事実には変わりはないんだからな」

 勝った。悔しかったらトリックを言い当ててみろ。もっとも、神様にやってもらったなんて、わかるわけがないがな。


「あなたは一つ、勘違いをしている」

 タン・テーが静かに言った。

「まず、拳銃をこの船に持ち込めないのは、ここにいる全員が同じです。私でも、あのセキュリティーを突破するのは不可能でしょう」

「ほらみろ、やっぱり無理なんじゃねえか」

「そして、犯行現場は完全な密室で、死因は明らかに銃殺。しかし部屋の中に拳銃がなかったことから、自殺の線もない」

「それがどうした?」


 タン・テーが締めくくる。

「つまり、この事件の犯人は、何らかの手段を用いて拳銃を持ち込み、何らかのトリックを用いて密室殺人を行った、ということです。このことには、合理的な疑いを差し挟む余地がない」

「で、そのトリックは何なんだよ?俺がどうやってそれを実行したのか、言い当てられるのか!?」

「さあ?」

「何!?」

「容疑者全員、誰が犯人だったとしても、同じトリックが必要なのだから、犯行が一見不可能であることは、犯人でない証明にはならない。それゆえ私は、トリックを特定する必要がないんですよ、犯人のミッシ・ツーさん?」




 豪華客船が港に着いたその場で、ミッシ・ツーは逮捕された。彼は裁判でも最後まで自分には犯行は不可能だと主張していたが、その主張が通ることはなく、殺人罪にて裁かれることとなった。




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