看護師の個人手記(抜粋/夜勤担当・匿名希望)
看護師の個人手記(抜粋/夜勤担当・匿名希望)
日付:2025年6月14日(土)
記録者:看護師H(仮名)/勤務年数7年
正直、これを書くのも気が引ける。でも、誰かに伝えておかないと、いずれ「ここに何がいたのか」が曖昧になってしまいそうだから、残しておく。
D-107号の明智さん。初日は普通だった。目は据わってたけど、こちらの問いかけにもしっかり答えていたし、騒いだり暴れたりっていうタイプじゃない。
でも、夜が来ると……あの部屋、なにかおかしい。
昨日、夜の3時すぎだったと思う。巡回で前を通ったとき、ふと中から「き〜い〜ろ〜の〜こ〜と〜り〜が〜♪」って……女の子の声が聞こえた。
最初はラジオかなにかだと思った。でも、部屋には音の出るものなんてない。
私が足を止めたら、ぴたりと歌が止んだ。
その瞬間、「ゆら……ゆら……」と、ドアの隙間から、冷たい風が顔を撫でていった気がした。
おかしいのはそこだけじゃない。
廊下の端にある観葉植物――誰もいないはずの時間帯に、何度も鉢が倒れる。花瓶の水が干上がってる。
別の看護師が言ってた。「階段下に女の子が立ってる夢を三日連続で見た」って。顔が見えなかったって。
でも私が一番怖かったのは、記録ノートの件。
夜勤明け、明智さんのカルテを確認していたら、誰も書いていないはずのページに、
ボールペンでこう書かれていた。
「ゆらゆら様、次はだれ?」
私は書いていない。ほかの誰も、書いた覚えはない。筆跡も見たことのないもので、ふにゃふにゃして、まるで手が震えながら書いたようだった。
昨日から、ナースステーションのモニターがずっと明智さんの部屋を映せなくなってる。「信号がありません」と表示される。業者を呼んだけど、異常は検知できないとのこと。
…誰か、あの人を、止めて。
② 保管室(S室)での異常現象記録
記録番号:#S-0614-M(施設管理課)
記録者:管理課主任・野田真也
■ 保管物:木製板(幅43cm、厚さ9cm、長さ62cm)
入院患者「明智〇〇」が私物として持ち込んでいたもの。院内職員の精神的影響を鑑み、病室から撤去し、S室に移動保管中。
■ 異常1:物理的振動
6月14日 午前2:47
S室のモーションセンサーが「繰り返し微細な振動」を検知。
当該時間においては施設内停電や地震の記録なし。隣接部屋の空調も停止状態で、人の立ち入り記録もゼロ。
記録映像では、木板の下部が微かに“揺れている”ように映っていた(職員3名が同一確認)。
揺れ方は周期的で、「ゆーら、ゆーら」と左右に1~2cm程度。これが約6分間続いた。
■ 異常2:接触職員の異変
木板を扱った管理課職員・Y(25歳・男性)が翌日早退。
「昨日から左耳の奥で何かがささやいている」「眠っている間に、板が胸の上に乗っている夢を何度も見る」と証言。
精神的混乱あり。休職申請中。
■ 異常3:目撃証言
同日深夜、巡回職員がS室前を通過中、「板の上に何か“ぬめっとした人の形”が座っていたように見えた」と証言。
本人は霊感等ないが、その後腹部に激しい痛みを訴え、翌朝内科で原因不明の胃痙攣と診断。
■ 結論(管理課より)
当該物品は明らかに通常の備品としての扱いを逸脱しており、
・一時的に「箱詰め&鉄製保管棚」への隔離
・関係者接触禁止
・処分検討
を提言する。
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