第13話 録音

翌朝。山間の空気は重く、湿っていた。


清は、弟・銀の連絡が一切取れないことに異変を感じていた。

彼の住む古い平屋を訪ねたが、室内は整然としたままで、布団も畳まれたまま――まるで帰るつもりがなかったようだった。


「銀……まさか、お前――」


居間のテーブルには、資料が一式広げられていた。

“ゆらゆら様”と書かれたメモ、古地図、そしてICレコーダーがひとつ、机の中央に置かれていた。


清はそれを手に取り、みきを屋敷の外の公民館へと呼び出した。


みきは、まだ青ざめた顔をしていた。

誠司は意識を失ったまま、誰も彼に触れようとはしない。翔は姿を見せず、家中の空気は重苦しい膜で覆われていた。


「みきさん……これは、弟が遺した音声記録だ。昨晩、あの“本堂”に独りで向かったらしい」


みきの手が震えた。


清が再生ボタンを押すと、ザザッというノイズの中から銀の落ち着いた声が響いた。


『……現在、社殿内に侵入した。異常な反応は――ない。気温は外より明らかに低い』


沈黙。


『……社殿の奥に何か……ゆれている』


唐突な発砲音。

みきが反射的に身を縮めた。


その後、低い呻き声。転倒音。何かが引きずられるような摩擦音――


そして、耳元に囁くような異常な女の声が、レコーダーから漏れた。


『――おまえは、“器”にはなれないんだよ』


その声を聞いた瞬間、みきの耳がキンと鳴った。


そして、録音は唐突に終わった。


「これは……」


「――弟は死んだかもしれん。だが、最後の言葉を聞いたか?」


清は言った。


「“器”にはなれない……つまり“器”になれる者がいる。――それがあんたかもしれん、みきさん」


みきの中に、薄々感じていた“直感”が確信に変わった。


彼女は、選ばれている。


「私、あの場所に行きます……銀さんの代わりに、確かめなくちゃいけない。私が、“誰”に狙われているのかを」


清はしばし沈黙したあと、小さく頷いた。


「だが……ひとりでは行かせんよ。準備がいる。こっちも、もう一人、手を貸す者がいる」


みきが顔を上げる。


清は、どこか懐かしむような眼差しを浮かべた。


「――昔から、こういう話に首を突っ込みたがる変わり者でな。俺の幼馴染で、今は廃寺に住んでる元・神主だ」

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