第7話 「骨鳴りと沈黙の朝」



誠司が意識を失い、屋敷には重い空気が漂っていた。朝日が窓から差し込んでも、家の中はまるで時間が止まったかのように静まり返っている。ひかりは言葉少なに台所を行き来し、成美は何度も窓の外を見つめては眉をひそめる。大おばあさんのひずみは、居間でじっと何かを考えているようだったが、口を閉ざしたままだった。


みきは誠司の寝室の隅に立ち尽くしていた。彼の無言の息遣いに胸が締めつけられ、何かが隠されている気配を強く感じていた。誰も真実を語ろうとしない。彼女はじっと考えを巡らせ、翔に真相を聞き出す決心をした。


物置の扉を押し開けると、翔が煙草に火をつけていた。濃い煙が薄暗い部屋に漂う。みきの視線に気づいた翔は、わずかに表情をこわばらせた。


「翔、あの夜、何があったの?誠司が…」


翔はふざけた声で応えた。「知らねえよ。変な女がいたんだ。歯ぎしりしててさ、赤い服着てて、ゆらゆら揺れてた」


その言葉にみきは凍りついた。「ゆらゆら…?」


「それ以上は言えねえ。絶対言わねえよ」


翔はそう言い残して、暗い夜の街へ走り去った。


みきは屋敷の書庫へ向かった。埃をかぶった古い書物の間に、牧田家に代々伝わる記録があった。そこには「御身代わりの習わし」「赤衣の婆の祟り」「女性に憑く怨霊」などの断片が書かれている。ゆらゆら様が瘦せた老婆の姿で赤いワンピースを纏い、洞窟の奥で祀られているという記述に目を奪われた。


夜が更け、みきは誠司の部屋で一人静かに過ごしていた。ふと、何かがギリギリと歯を鳴らす音が聞こえ、襖の隙間に視線を向けると、そこにゆらゆらと揺れる影があった。赤いワンピースの裾がかすかに見えた瞬間、みきの体は恐怖で硬直した。


彼女の長い夜が、今、始まったのだった。








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