第4話

天野達が飲んでいるところに一通の連絡が入った。




「ボス…」




「お前ら仕事だ、行くぞ」




「おいーまじかよ、今じゃなくてもいいやんけ」




同じような事を誰もが思っていた。楽しんでいたのに急に飛び出しをくらうこれほど嫌なことはない。そうとはいえいくしかない。




会議室に到着したと同時に状況の説明が始まった。




「今より1時間前にゼロ隊から緊急の連絡が入った。巣の処理中に未確認の怪物に遭遇、そういつは繭から孵化するとともにゼロ隊の一人を殺害した。」




「未確認?どういうことですか。」




「敵の姿は人型、そして特性として素早く目でとらえきれないとのこと。また、攻撃をしない限りモルスからの攻撃も確認できないということだ。現在γが現場の検証に向かっている。」




「繭にいるやつもその人型と同程度の力を持った怪物ということですね。」




「そうだ、君たちにも現場に向かってもらい、γと敵の駆除に当たってほしい。」




「久々の対怪物戦、それが未確認で中々に強いと。めっちゃ燃えますね!それ!」




「新野…黙れ」




久しぶりの対怪物戦、しかもそれが工場跡地ともなれば能力の使用にも制限がかからない。なんのストレスもなく一方的にストレスを怪物に押し付けることができる。


それにαは少なからず気分が高揚していた。




そうして俺たちは巣のある工場跡地でγチームと合流することが出来た。




「おう、天野。お前らが来たのか」




「おう加藤、久しいな。状況がどうだ。」




αチームはγのリーダーから状況と作戦を聞くことにした。




現在、人型の怪物は巣の目の前にいる。それも腕組をしながら仁王立ちしているらしい。作戦の最終目標は繭および怪物の殲滅になった。民間人が近くに住んでいないことから能力の使用制限もなく自由に使用できることになった。




まず、人型怪物の動きを止めるために加藤の能力を使用し相手を縛る。そこに火力で押し切るという作戦だ。




「随分と大雑把な作戦だな。」




「早いということしかわかってないんだ。縛って火力で押し切るのが一番だろ?そのために青空とこちらの江藤の能力で頭を吹き飛ばしたい。やれるか?」




「瞬間で出せる火力はそいつらが最大か。チャージにラグがある銃火器は向かないか。」




「そういうことだ。他の奴らは押し切れなかったときの追撃だ。それに戦闘機も出せることになっている。」




作戦は決まった。あの未知の怪物に俺たちがどこまで通用するか分からない。それが一番の懸念材料だがいつものことだからか、そんなに驚くことなく受け入れることが出来た。作戦が決まり、本部の許可も出た。




「ボスいました。」




「あれか、動きは?」




「ありません」




「加藤いつでもいけるぞ。青空も江藤も位置についた。」




敵の周りには総勢12人の特殊部隊、この国の精鋭だ。正直俺たちが対処できないならだれにも対処はできない。だが緊張はないこのような作戦は無限にこなしてきたからだ。


怪物は俺たちが死んでもぶっ倒す。その役目だけは誰にも渡したくない。




それぞれが配置につき加藤の合図で作戦が始まる。




「蟻地獄!」




加藤の能力は土を操る能力である。土を蟻地獄の顎の形に変形させ相手を挟みこむことで相手の動きを封じることに成功した。




「やれ!青空!江藤!」




「炎舞剛拳!」


「鉄拳!」




合図と同時に怪物の周囲に爆音が響き渡った。青空と江藤が飛び出し相手の頭にそれぞれの最大火力を叩き込むことに成功した。




「まだだ!他の者は距離を取り攻撃を継続して行え!」




全員が指示に従い自身の銃にオーラを込めて打ち続けた。




「攻撃やめ!」




一斉にやめたことで騒音が一気になくなった。やがて上がっていた煙が開けた。




「目標確認できません!」




「天野!」




「わかってる!今位置を共有した!」




天野の能力は自身から半径100m以内の空間を把握しそれを共有することができる、さらには一度目撃した対象が範囲以内にいる限り空間と同じく位置を追うことが可能であった。そして天野がαチームのボスたらしめる一つの要因であった。




「全員身体強化で対抗、航空支援が1分後に到着し集中攻撃を始める!追い込むポイントはわかっているな!」




もし倒しきることが出来なかったときのために対モルス用の戦闘機を手配していた。モルスが現れて以来この国の兵器は対人戦ではなく対怪物戦の方向に進化していた。怪物には弾丸や火薬は効かないわけではないが雀の涙で程度のものであったため、ゼロ隊は独自の技術を駆使することで弾丸に鉛や火薬ではなく生命エネルギーであるオーラを込め発射する兵器を開発した。込めるほどに火力があがるため戦闘系の能力者だけでなく支援や援護の能力を扱うものも前線に向かうことができ作戦の幅が初期より広がった。さらには、能力での戦闘より体力も温存できるため戦闘系の能力者にも広がることになっていった。弱点と言えば弾丸程度の大きさならオーラを込めることは可能であるが、ミサイルや爆弾サイズになると長期の保存が出来ずその都度誰かが込めるしかなく限定的な実践でしか使用できないことも知られていた。




「チャンスは一回、青空!江藤!やるぞ」




「「「了解!」」」




追い込むポイントは巣の近くの駐車場になった。開けているため狙いやすい、さっきと同じぐらいの火力を瞬間的にぶつける方法はこれくらいしかなく、多少のリスクも許容しなければならない。




天野のおかげで相手の位置を把握できるからか、全員が攻撃をいなすことが出来ている。だが守っていることが精一杯だ、それでもちょっとずつポイントに誘導はできている。




「捕まえた!蟻地獄!やれ!」




「炎舞剛拳!」


「鉄拳!」




「チェンジ!」




二人が殴った後αの加賀見が持っていた二つの石と二人の位置を入れ替えた。そして、航空支援に来ていた戦闘機からレーザービームのような光線が発射しモルスに直撃した。




「たく、どんだけ込めたんだよ。」




「加藤、後はあの繭だ、羽化する前に壊すぞ」




攻撃が直撃をしたところには何も残っておらず怪物が消滅したと思われた。二チームはそれを確認し繭の破壊に移った。




「近くによるとかなりデカいな、俺の三倍は大きい。青空!燃やしてくれ」




「了解です、これだけ大きいと少し時間かかると思いますが」




そうして青空が自在に炎を扱うことができる能力で燃やすため繭に近づいた。




着火すると同時に繭にひびが入った。




「青空よけろ!」




天野の声に青空は体を後ろにそらし攻撃を避けた。




「お前、さっきの!生きていたのか!」




青空に攻撃したのは先ほど倒したと確認した怪物だった。そいつは上半身の半身は無くなっていたがそいつは生きていた。全員がそいつに気を取られひびが入った繭に意識を向けることが出来なかった。




「グハァ!!」




青空が攻撃を躱したのにも関わらず後方に吹き飛ばされた。




「生まれたのか…」




青空の安否確認をしなければならないがそいつから目を離すことが出来ない。目を離した瞬間殺される。それを本能が訴えかけてくる。戦っていた怪物の比でない威奴感、今までにない恐怖が精鋭たちの動きをとめていた。




「まったく、うるさいな。」




青空と突き飛ばした張本人の声が聞こえてきた。声は低く重々しくその腕には王冠のタトゥーが入っていた。




「久しいな新人類、1万年ぶりか。」




怪物が喋ることは今の今まで確認されていない。それに、ありえない怪物に知能はないはずだ。知能が無いからここまで対抗できたのにそこに知能が加わったらどうなる。勝てるのかこんなやつらに、誰もがそう思っていた。




「ムーラがここまでやられるのは期待以上だ。再生しろ」




その声でムーラの体が再生し始めた。どうなっているかなんて誰も理解できていない。ただ見ていることしかできていなかった。だがただ一人だけ動くことが出来ていた。




「お前か!!俺の家族をヤッタのは?!!」




動いたのは青空だった。感情のまま、ただ怒りに任せてそいつに殴りかかった。




「あ?うるせぇよ雑魚。殺した奴のことなんざ、覚えてられるか。お前もこのまま死ぬか?」




青空の拳は簡単に弾かれ首を掴まれてしまった。




「お前のぜぇで!お前のぜぇで!俺は一人ボッチになっだんだぞ!」




「知ったことか、弱いから死んだ、力が無かったから死んだそれだけだ。いちいち怒るな」




敵は青空の体を浮かし、腹を殴った。




「グハァ!おまえぇ!」




「うるさい」




再び青空は吹き飛ばされ気を失った。


「まぁいい、他の奴らはどうする?」




その言葉に正気を取り戻した隊員たちは一斉に敵に銃口を向けた。




「やる気は十分か。面白くなりそうだ。だが今日はここまでだ、今ここで貴様らを殺すことは簡単だがそれじゃつまらない…。御上もそれは望んでないだろうしな。」




「どういうことだ…」




「知らないのか、新人類は。なら教えてやる我らの目的は人間を全滅、地球に住む人間および文明を滅ぼすことだ。」




「なぜだ…」




天野の一言一言に緊張が伝わってくる。




「ゲームだ、神のな。俺たちは神に作られた家畜みたいなものなんだよ。お前らが動物を殺すか戦わせて楽しむように神を我らと貴様らを戦わせて娯楽を楽しむ。地球を作って十数億年繰り返してきた。人間はこれまで何億回と絶滅している。シンプルだろ?純粋な種族同士の戦争ということだ。」




「意味が分からない、人類の歴史はせいぜい数万年だぞ。」




「そう思うのも無理はない。文明が跡形もなくなくなっているのだから。お前らも見たことぐらいはあるんじゃないか?オーパーツ?と言われているものをそれは我らが滅ぼした文明の遺産だ。人類は誕生と終焉を繰り返しているんだ。我々の手によってな」




「はぁはぁ」




「処理が追い付いていないって感じか…。まぁいいもう一人も生まれることだし今日はここまでにしよう。貴様らも情報を処理したいだろ?せいぜい楽しませてくれよ?新人類」




そう言い残し敵は消えていった。新手の怪物、人の言葉を喋る、勝てるかも分からない力、知られざる事実と歴史などの情報がそれぞれの頭に駆け巡りしばらく誰もじゃれることが出来なかった。唯一後から来た救援部隊が青空の手当をしていた。雄一幸いだったのは死亡した者が1人であったことだ。明らかに見逃されての生還だが何とか生き残ったのだ。

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