第2話

立て籠り事件から数日がたった。怪物やαチームが出動するような事件は起きることは無かった。青空は待機室から抜け出し街に繰り出していた。特にすることもないが待機室にいてもやることがないし、いつも同じ顔を見るのは疲れるからだ。駅を中心とした街はいつも通り賑わっている。青空は図書館に向かいながら、上を見上げると電光掲示板にニュースが映っていた。内容はゼロ隊と怪物についてだった。


「ここからは怪物の発現情報になります。怪物も活動は現在減少傾向にあり、街中に発現する可能性も極めて低くなっております。このような状況を見て田中さんはどう思いますか。」


「そうですね、発現の減少についての理由がわかっていない以上楽観視はできません。ですが、街中や一般の人が怪物に遭遇することが減っているのゼロ隊の尽力があってのことだと考えるべきでしょう。感謝すべきことだと私は思いますよ。」


「でもね、田中さん。災厄から10年も過ぎているんですよ?流石に生体の一つや二つわかってもいいでしょー。なにも分からないまま時間が過ぎているほうが問題なのでは?」


ニュースに参加していた、他の奴が話に入りこんできた。


「みなさんもそうでしょうー?いつまで未知の怪物に怯えなければならないんですか?国の税金を使っているのだから。もっとしっかりして欲しいですよ」


そういいながら議論を進めていった。


くだらない、青空は思った。


「戦ってもねー奴が適当言うなよ。全員真剣にやってんだから。」


そう言いながらしばらく街を散策した青空は待機室に戻った。


「おう、戻ったのか?」


「刈谷さん、いたんすね。」


「銃の整備してたんだよ。それに帰っても一人だしね。ここにいれば一人にならなくて済む。」


「そうっすね」


刈谷も災厄の被害者であった。両親はともに他界していたが、友達や当時付き合っていた婚約者を失い一人になってしまった。


「他の人はどうしたんです?」


青空が帰ってくる前に誰かいた痕跡があったため、青空は少し気になった。


「ボスはいつものところ、宮山は畑?他は知らないな」


「畑?なんすか、畑って」


お調子者の宮山が畑というところにとてつもない違和感を覚えた青空は、ついそんなことを聞いてしまった。


「知らない?変な爺さんのところでイチゴとか果物育てているんだよ。たまにある差し入れはその畑のだよ。」


「不思議なこともあるもんですね。」


「失ったものは、戻らないしね。みんな、自分の居場所を探して彷徨ってるよ。きっと青空にも見つかるさ。」


失ったものが元に戻らないことは知っている。だが、青空にとってそれが新たなものを得るために行動する理由にはならなかった。それに、また何かを抱えれば失う可能性が生まれてしまう。友達を持つことにすら恐怖をもっていた。あんな経験を二度としたくはないと青空は思っていた。


「あと、あのお孫さんとなにかあった?」


青空はその問いにびっくりした。まるで見透かされているようだった。


「いや、何もないっすよ。助けたときもマスクして顔が分からないようにしていましたし、任務に集中していたので、咲耶さんに対して特別な感情を持ったりしていませんよ。」


作戦のあと副司令官の孫が青空に直接お礼がしたいということで会っていたのだ。


「でもあの後、会ったんだ。へぇー」


「あっ…。ただのお礼です。」


青空はやってしまったという表情が声にまでなって発していた。


「良かったよ。君も君なりに前に進もうとしていることがわかって。」


そんなことを話していると、他のメンバーがぞろぞろと待機室に入ってきた。


「刈谷さんと青空じゃねーか。」


「騒がしい奴が帰ってきたようだね。」


「加賀見さんお疲れ様です。」


加賀見に続き新野と宮山も入ってきた。


「ボスは?」


「上官と会議室、次の作戦のことだろうな」


そういっていると待機室の扉が開いた。


「会議室に来い任務だ。」


「ほら、きた。」


そうしてαチームの面々が会議室に集められた。


会議室にはαチームに上官そして初めての顔が一人いた。


「ご苦労、今回の作戦だが私からではなく、彼女から行ってもらう。一応これから世話になる人間だ。」


「私は、怪物対策部能力者対策室の者だ。今回の任務は極秘のため私が直接話をしに来た。」


そう話し始めたのは、黒のスーツに、肩にかかった黒の長い髪が特徴の目麗しい女性だった。


「ちょっと待ってくれ、まず誰なんだよ。」


加賀見がごく当たり前の質問を投げかけそれに皆うなずいた。


「さっきいったろ。能力者対策室の者だ。名前は遠藤綾。我々の仕事は情報収集を専門に扱っている。」


「あーなるほど、臆病者集団か。」


「おい、口が過ぎるぞ。」


明らかな侮辱にボスが口を挟んだ。


「はぁ…、放っといていい。話を話してくれ。」


「あー分かった。今回の任務は、君たちが見た黒のコートに関する物だ。」


それを聞いた。瞬間加賀美が目を見開き待っていましたと言わんばかりの表情で遠藤綾を見つめた。


「なんだ…その目は、怖いぞ。」


「いいから話せ」


「あ、あぁ。」


そういいながらも遠藤綾の口から任務の詳細が語られた。


黒のコートまたの名をアンノウンは各地の犯罪者集団と接触していることを確認された。また、今回そのうちの一つを先導し理由は不明だが通天閣の破壊を目論んでいる情報が対策室に入った。このことからその犯罪者集団のメンバー、アジトを調べたところ、メンバーは全部で6人、能力者が4人であることそして、アジトは兵庫県の神戸市内にあることが分かった。作戦の執行は今日から一週間後であること、そういった理由もありゼロ隊ではなく直接αチームに直接依頼が舞い込んできた。


「君たちには、敵アジトに直接攻め入り敵を殲滅してほしい。大阪市内に入っているメンバーについては、βチームに依頼している。アジトが市街地にあるため能力の使用は極力避けてもらいたい。また、アンノウンは生きたまま捕獲をしてもらいたい。」


「いいけどよー、能力の使用が不可っていささかキツイだろ。さすが、現場を知らないやつの言葉は違うね。」


「こちらとしても、能力者が4人では、こちらも能力を使用せざる負えない。町の破損に対しては極力小さくするが、勘弁してもらいたい。」


いくら相手は単なる犯罪者だとしても、それが能力を持つならその危険性は一気に跳ね上がる。前回は能力が一人だったから難なくやれたものの今回は4人、能力も分かっていない。それに加えアンノウンの捕獲?要求があまりにも過剰だった。


「できないのであれば、βチームに代わってもらってもいい。君たちは少ない方の狩りに入ってもらうことになります。」


「できないとは言っていないだろ!」


「落ち着け加賀見、感情的になるな。」


「気に食わないんだよ!さっきから!急に来て、上から命令してくる感じが!階級は同じだろ!」


「落ち着け!!今は作戦を確認しているんだ!頭を冷やしてこい!」


「くそっ!」


そう言い残し加賀見は会議室を出ていった。


「作戦は実行可能だ。任せてほしい、アジトの詳細とメンバーの詳細を寄越してほしい。それと、能力の使用は我々で判断する。後片付けは君たちの仕事だ。」


作戦の実行は決まった。その後具体的な内容について話し合いになり、作戦の実行が3日後に決定したところで会議は終了した。


初めにαチームの面々が初めに会議室をでていき、部屋には天野と上官そして遠藤が残った。


「なんなのです。彼らの態度は!明らかに我々を小馬鹿にした態度、おかしいではないですか。」


初めに口を開いたのは遠藤だった。かなり鬱憤が溜まっていたらしい。その見た目からクールなイメージをしていたが、意外と感情が表に出てきてしまうらしい。


「すまない。プライドが邪魔しちゃったのかもね。それに、君もなかなか上から話していたしね。」


「あれは、そちらから突っかかってきたんでしょ?!なんですか!臆病者集団て、侵害です。」


「あはは、それに関しては加賀見には一言言っとくよ。言い訳かもしれないが、加賀美は元々ある集団のメンバーなんだ。それが災厄ですべての仲間を失い運悪く生き残ってしまったんだ。組にいたのもあってなのか。自分がボスと認めた奴の命令じゃないとききたくないんだ。だから、君に突っかかったのかもしれない。」


「それは、侮辱していい理由にはなりません!次また、同じようなことが起きれば上に報告します。」


「本当にすまないことをした。ゴマをするような言い方かもしれないが、君の話はとても有意義なものだった。ありがとう。」


「当たり前です!」


そう言い残し遠藤は部屋を出て行ってしまった。


「苦労を掛けるな…。」


そうつぶやいた上官の言葉が天野の心境を表していた。


作戦会議から三日後αチームの面々は軍施設の飛行場にいた。


飛行場には、αチームの面々と作戦をともにするβチームもいた。


「しくじんなよ?」


βチームのリーダーである。佐々木が言い放った。その言葉に天野は嫌味たっぷりに返した.


「当たり前だ。お前らとは違って作戦の重要な部分を任されているからな。雑魚狩りぐらいは任せてやる。」


「黙れ…」


お互いに憎まれ口を叩きながら睨みあっていた。


「あの人達、誰にでも喧嘩を売るんですか」


「気に食わなければ基本的に誰にでも売っているよ。彼らは…」


「気の毒ですね。」


「いろいろあるが楽しいよ。」


αチームたちから少し離れたところで、遠藤と上官が雑談をしていた。


そうしていると実行3時間前になり、それぞれの現場に移動を始めた。


車で移動中作戦のおさらいが行われていた。


「今回の作戦場所は,市街地のマンションだ。そして問題なのが一般の会社も多少なりとも入っていることが一番の問題だ。おかげで、銃火器の使用は絶対禁止、能力の使用はアジトがあると思われる三階でのみ使用が許可された。だが、あちらはつべこべ言わずに我々を殺しにやってくる。能力の使用をためらうことなく使用すること。そして、能力者は全員捕獲する。これが今回のルールだ。」


「市街地だから我々は私服で向かうと?」


「そうだ、俺たちは一般人を装いマンションに侵入する。2階の会社に訪問を装える手はずは、整えてもらえたからな」


今回の作戦の難しいところは、なんといっても敵の近くに一般人がいること、それにより銃火器の使用は人々の混乱と恐怖を煽ってしまうという理由で禁止にされた。だが、逆に能力の使用が認められたのは、この10年で人々が能力者というものに慣れてしまったためである。銃火器より近い存在になっていた。これは、平和だった日本だけが持つ歪な変化の象徴にもなっていた。


「作戦は簡単だろ?あとは各々休め。」


「了解。」


「加賀見はちょっと来い。」


天野は前日までの加賀見の様子を見ていて、思ったことがあったのか。加賀見の話を聞くことにした。


「どうかしましたか、ボス。」


「加賀見、先日からチーム以外に対する言動や態度が身に余る。ちょくちょく苦情が入っている。何か、あったのか?」


「なんもないすよボス。自分は普通です。」


「尚更ダメだろ。いいから言え」


加賀見の変化を確信している天野はとぼける加賀見を見逃すわけもなくさらに詰め寄る。そんな天野に観念したのか。加賀見がその重い口を開いた。


「ボス、アンノウンのことなんですが、もしかしたらうちの組の者かもしれません。」


「はっ?」


衝撃の言葉に天野も驚きを隠すことが出来なかった。


「確証はまだないんですが、スリーかもしれません。声や背格好、そして消える際に微かに見えた手の痣が気になっているんです。」


「それは?ほんとか?」


「かもしれない程度ですけど…」


「だとしても今のお前には何の罪もないだろ。気にしなくていい。」


「そうなんすけど、それを見て見ぬふりをしたら組を託された者としてダメな気がするんです。もし、アンノウンに遭遇した時は自分に任せてくれませんか。」


「それはできない。アンノウンに対しては軍が警戒しているんだぞ?もし本当に組の者だったら、加賀見にも監視の目が行くぞ。」


「俺は組を託されたんです。組の者一人どうにか出来なかったら死んだ時に仲間たちに合わせる顔がありません。」


その言葉に天野は頭を悩ませた。部下の気持ちはわかるが、作戦に私情を挟むことがどれだけ危険な事かを天野は、数々の仲間を失って嫌というほど味わってきたからこそ頭を悩ませた。もし本当に加賀見の組の者だった時に加賀見は勿論その周りも用観察対象にされ将来に関わることも考慮しないといけない。逆に加賀見からアンノウンの情報を聞きだすことで、テロ対策に繋がることも確かであることが余計に天野を悩ませた。


「ボス、この件は俺に任せてください。お願いします。」


加賀見は移動している車の中で天野に頭を下げた。


「ここで頭を下げんなよ…。」


加賀見が移動中の車両内で全体に聞こえる声と頭を下げたことによりαチーム全員が天野達に意識を向けた。


「加賀見やったなお前。そしてお前ら聞いてたのか。」


「まぁ、一旦好きにさせてみたらいいんじゃない?まだ確定ってわけじゃないんでしょ?」


「それは、そうだがな…、分かったよ。好きにしろ。」


「ありがとうございます!」


「アンノウンとの戦闘には優先的に戦わせてやる。ただし、俺の指示には絶対従え?私情を挟むな、感情は相対したとき戦闘の中だけで吐き出せ。いいな?」


「もちろんです。ありがとうございます。」


加賀見の策略もあり話がうまくまとまった。他にも雑談をして時間をつぶしていると、車両が止まり現場についた。


「ついたな。行くぞ。」


そういってαチームは作戦に移った。


「俺たちはあくまで商談に来た営業マンだ。わかってるな。」


「ボス、そんな感じに見えねーですよ。」


そのツッコミにαチームが皆わらった。


「ハハッ、間違いない。」


「いいから行くぞ」


αチームがマンションに入り協力をあおった会社の人が彼らを出迎えた。


「お待ちしておりました。オフィスまでご案内いたします。」


「あぁ、頼むよ。」


案内人は自体を察しているのか、少し緊張しており演技かかった声で話した。


「エレベーターで二階に向かいます。」


「ここまでの協力ありがとうございました。ここからは私たちの仕事なのでご心配なさらないでください。」


特に何事もなく二階のオフィスに到着しそこで作戦のおさらいをした。


「うしっ、やるか非常階段からいっきに行くぞ。」


「単純で助かる。」


天野を先頭に隊列を組み非常階段で待機した。それを確認した天野は司令部に連絡をいれた。


「こちら、α1待機完了しました。いつでもいけます。」


「α1了解。αチーム並びにβチームこれより殲滅作戦を開始する。始めろ!」


その掛け声とおともに天野達は一斉に開始した。


「たのもー!!悪い子はいねがぁぁーーー!」


「なんだ!お前ら!お前らやっちまえ!」


その掛け声とともに戦闘が始まった。


「青空はそこの黒髪、加賀見は俺とトップを潰すぞ!残りは適当にやれ!」


「なめてんじゃねーぞ!」


そういって黒髪の周りに風船が発生し始めた。しかし、青空は気にする様子を見せることなく黒髪の懐に飛び込んだ。


「いいから黙って寝てろや!」


「馬鹿め!爆ぜろ!」


掛け声とともに発生した風船が爆発をし始めた。その音は、オフィスは勿論外まで響いていた。


「死んだな!直撃だ!雑魚が粋がってんじゃねーよ!」


黒髪の男は爆発が青空に直撃したと確信し饒舌に話し始めた。


「うるせーな!風船が爆発するのは想定済みなんだわ!」


散乱する煙の中からその声とともに青空が飛び出してきた。


「お、お前なんで?!」


黒髪はさっきとは打って変わって明らかに動揺しておりそれを隠せて無くなっていた。


「どうした?自慢の風船を爆発させないのか?できねーよな!自分もまきこまれるから!」


青空はそのまま黒髪を殴り気絶させた。確保した。


そうして作戦は進み残すは天野と加賀見が追いかける敵の頭だけになった。


「アンノウンは現れないな、加賀見!奴をとらえることを優先しろ!」


「了解!」


天野と加賀見は逃げる頭を追い続け地下まで追い続けた


「ボス!出口は?」


「一カ所だ!どこかに潜んでるはずだ。」


二人は慎重になりながら地下空間で頭を散策した。そうすると、周りにあったものが揺れだし、二人に向かって飛び掛かった。


「仕掛けてきたな!」


二人はそれを躱しながら頭を見つけた。


「見つけたぞ!」


そういいながら犯人を上手く逮捕することに成功した。だがアンノウンは姿を見せることはなかった。


「奴現れませんでしたね。」


「いるだろ?目の前に」


「出やがったな!」


加賀美はアンノウンを見つけ次第すぐに飛び掛かったが上手くいなされてしまった。


「危ないだろ、加賀見、あなたはいつも短気だ。」


アンノウンはそう言いながら被っていたフードを外した。


「スリー!てめぇどういうつもりだ!」


アンノウンは加賀見が睨んでいた通り元いた組織のスリーだった。


「どういうつもりも何も状況が、時代が変わった。ただそれだけのことだ。」


「お前わかっているのか?!テロ行為なんだぞ!組織の奴らが見たらどう思う!」


「黙れ!組織も守れなかったお前に!とやかく言われたくない!お前が弱いから仲間もボスも死んだ。全部あんたのせいだ!」


そういいながらスリーは確保していた人質に銃口を向け発砲した。それを見た天野は咄嗟に人質を移動させたが弾丸は命中し人質は死亡した。


「スリー!てめぇ!」


何度も殴りかかったがスリーに拳が当たることは無く、全て躱されていた。


「なんであたんねぇんだ!」


「言ったろ?お前が見ているのは本体じゃない」


「加賀見!そこに映っているのはおそらく映像か何かだ!本体は別にいる。さっきの銃弾も別方向から飛んできた!」


「気づいたか。てか君の能力は空間把握か?だから味方に的確な命令や建物の構造が瞬時に理解できる。面白い能力だ」


「だったらなんだ」


「二人目、収穫だ。これで撤退できる。加賀見またどこかで会う。」


スリーはそう言い残しその場から姿を消し消えた。作戦としては組織の壊滅は成功した。だがおそらくスリーについての情報をもっていた頭が死亡してしまった以上胸を張って喜べる物ではなかった。

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