夜行

一、

闇路（やみぢ）にも汽笛（きてき）の聲（こゑ）を響（ひゞ）かせて今（いま）こそ挑（いど）め二人三脚（ににんさんきやく）

二、

夜（よ）は更（ふ）けて酒宴（しゆえん）はいよゝ酣（たけなは）に酌（く）みてかはさむ一夜（いちよ）の旅（たび）ぞ

三、

本州（ほんしう）へ入（い）らむとすれば關門（くわんもん）は早鞆（はやとも）の瀨戶（せと）微睡（まどろみ）の間（ま）に

四、

機關車（カマ）を換（か）ふ合圖（あいづ）も響（ひゞ）く下關（しものせき）けふを限（かぎ）りの夢見心地（ゆめみごゝち）か

五、

おやすみの音色（ねいろ）も床（ゆか）しハイケンス目醒（めざ）むる旦（あした）はいづこにありや

六、

目（め）が醒（さ）めてこゝはいづくと眺（なが）むれば我（われ）は在（あ）りけり備前國（びぜんのくに）に

七、

腰痛（えうつう）も夜行列車（やかうれつしや）の勳章（くんしやう）としみ〴〵おもふこの夜明（よあ）けかな

八、

驛驛（えき〳〵）に手（て）をふりかはす內（うち）と外（そと）まじふる心（こゝろ）復（ま）たはあるまじ

九、

大分（おほいた）の驛（えき）をばいでて七百粁（ななひやくキロ）列車（れつしや）つきけり水都（すいと）大阪（おほさか）

十、

うれしけれ夜行（やかう）の燈火（ともしび）うすぐらき令和（れいわ）の御代（みよ）に旅（たび）をせむとは