第3話(終) 討債鬼
孔音は和也とマンションで会っていた。
「単刀直入に伺います。智之さんの中に居る存在について、長谷川さんはご存知ですね」
その言葉に和也は言葉に詰まる。
「……知らん」
孔音はソファーから立ち上がった。
「そうですか。正直に話して頂けないのなら僕は帰らせて頂くだけです」
踵を返しドアに向かう孔音を、和也は後ろから呼び止めた。
「ま、待ってくれ! 頼む! もうどうしたらいいか分からないんだ! 何でも話す! だから助けてくれ!!」
泣き崩れる和也は、彼は全てを話した。自分がいかに追い詰められたか、これからどうすればよいのか、何を知ってどこまで知っているのかも。
和也が会社を立ち上げたばかりの30年前。
バブル崩壊の荒波の中で、一人の男の姿が浮かび上がる。
男の名は
長谷川和也の先輩であり親友だ。
和也の会社はバブル崩壊によって、致命的な経営危機に陥った。生き残るため、徹から3億円の金を個人的に借りることで、会社の危機を乗り切ったのだ。
だが、徹は事故に遭い亡くなった。
和也は、親友の死に涙を流すよりも、借りた金を返さなくても良くなったことに喜んだのだ。
「あなたの息子さんに憑いているのは、討債鬼となった相沢徹です。あなたから金銭を返してもらう為に」
孔音に真実を突きつけられ、和也はついに崩れ落ちた。
【討債鬼】
古代中国(唐代)から伝わる債権を要求する怪異。
金を奪われたり、借金を踏み倒されたりした者は、加害者の子供に転生し、奪われたり、踏み倒されたりした金額だけ親の金を
この概念の話しは日本にもあり『日本霊異記』には子供に取り憑く他、子供を病気にさせることで多額の治療費を消費させようとしたり、遊び人に生まれついて財産を使い尽くしたり。奪われた額と同じだけ親の財産を
そして、目的を達成すると、早死にする。
金を奪われたり、金を貸した側が死んだら返さなくてもいいと考えるのは大間違いだ。討債鬼はどんな状態にあっても奪われた分をきっちり取り返しにくる。清算のつかない貸借契約は、あの世へと持ち越されるのだ。
和也は自身の資産を切り崩すだけでなく有価証券などを売り払い、相沢徹の家族に返済することになった。最終的に預金口座にあった全貯金を投じてしまったことで破産宣告を受けた。
タワーマンションすらも売り払った後に残った僅かな貯えすら、何もかも奪い尽くされてしまった。
30年前に蓋をしたはずの債務が、利息という名の怨念をたっぷりと含んで蘇り、彼の魂のみならず社会的に殺しにかかった。
会社を経営していた男は、一瞬にして借金を背負う債務者へと転落したのだ。
その姿を孔音は見た。
討債鬼譚の、あまりにも人間くさい欲深さ、業の深さ、あさましさをこれ程さらけ出した物語はない。
いつまでも忘れてくれないあたりに、人間ならではのしつこさと、怪異の狂気を感じずにはいられなかった。
(完)
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