コタツのまま、夏
今年の6月は、なんだか暑い。
まだ梅雨入り前だというのに、日中は真夏日が続いている。
朝から蝉みたいな元気のある日差しに、アイスコーヒーを淹れる手つきも自然と早くなる。
にもかかわらず、うちのリビングにはまだ、コタツが出ている。
どこかの季節に置き去りにされたように、堂々と、テーブルのふりをして。
見て見ぬふりをしていたが、さすがに暑くなってきたので、昨日こそは片付けようと思ったのだ。
コタツ布団を引っ張り出しながら、掃除機をかける準備もして、さあ、天板を外して。
そのとき、鳴いたのだ。
にゃあ、と、まるが。
猫のまるは、コタツの中で眠るのが好きだ。
いや、正確には、コタツ布団のふちの「ちょっとだけ日陰」のところで、ごろごろ転がるのが好き。
たぶん、布団が作る暗がりが、落ち着くのだろう。
風通しが悪くて暑いはずなのに、そこにいるときのまるは、満足そうな顔をしている。
そんな姿を見ていると、つい、「じゃあ、もう少しだけ出しておこうか」と思ってしまう。
あと数日だけ、もう少し、まるが飽きるまで。
夕方になると、少し涼しい風が入ってきて、アイスティーを片手にソファへ。
コタツの上に肘を置きながら、録りためたドラマをぼんやり眺める。
天板の角が少しガタついていて、そこに腕をのせるとちょっとだけ痛い。
でもそれも、なんだか馴染んでいて落ち着く。
窓の外では、紫陽花が色づきはじめていた。
夏がそこまで来ているのに、うちの中だけは、まだ冬の続きをしているみたいだ。
「…まあ、7月になったら本気出そう」
そんなことをつぶやきながら、リモコンを取ろうとして、天板の上のアイスティーをこぼしかける。
やっぱり片付けた方がいいんだろうなあ、と思いながらも、そのまま今日も、何もしないまま夜になった。
まるはいつのまにか、またコタツの布団の陰に潜っている。
今年の夏も暑くなるらしい。
でももう少しだけ、季節を遅らせておこうと思った。
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