ぴかぴかのヒヨコたち
夕方、駅からの帰り道。
バス通りを曲がった先の交差点で、車が数台、ウインカーを出して止まっていた。
右へ行くつもりの車たちが、順番待ちをしている。
右、右、右。オレンジ色の矢印が、ぴか、ぴか、ぴか、と、同じリズムで光る。
先頭の車のウインカーが光ると、そのすぐあとに2台目のウインカー、3台目、4台目……と、少しずつズレながら、同じタイミングで点滅している。
その光をぼんやりと眺めながら、ふと思った。
「なんか、ヒヨコさんみたいだなあ」
ぴか、ぴか、ぴか。
オレンジ色の小さな光が、順番に瞬いて、まるで親鳥のあとをついていくヒヨコたちの行進のように見えた。
ちょっとだけ間のあいたウインカーのリズムが、「ぴよ、ぴよ、ぴよ」って聞こえる気がする。
不思議と、それだけで少し気持ちがやわらいだ。
今日は仕事でミスもして、電車も遅れて、帰る途中に雨にも降られて。
靴下まで濡れて気分はすっかり湿っていたけれど、ウインカーの光を見ていたら、なんだかどうでもよくなってきた。
きっとあの車たちも、今日いろんなことがあった人が乗っているんだろう。
でも今はただ、交差点で右に曲がろうとしてるだけ。
「ぴよぴよ、右に行きますよ〜」って。
それだけの意思表示なのに、こんなにかわいい。
車が動き出す。
順番に、親鳥のあとを追うみたいに、1台、2台、3台……と右折していく。
私は歩道橋の上から、それを見送った。
あっという間に、ヒヨコの行列は視界から消えてしまったけど、オレンジの光が残像みたいに心に残っている。
――ぴよぴよ。
信号が青に変わったので、私はそのまま家の方へ歩き出した。
うん、帰ったら、あったかいお茶でも淹れよう。
ウインカーのヒヨコさんたちのおかげで、ちょっとだけ元気になれた気がしたから。
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