スニーカーみたいな長靴

朝から、空はどんより。

出かける支度をしながら窓の外をちらりと見ると、舗道にぽつぽつと丸い模様。

ああ、降ってきたな。


クローゼットの奥から引っ張り出したのは、去年ネットで見つけた“スニーカーみたいな見た目の長靴”。


ぱっと見は、黒いスニーカー。

けれど素材はつるんとした防水仕様で、靴底も滑りにくくできている。

見た目に反して、すこし重たい。

でも、なんだか今日はこれを履きたくなった。


「長靴です、って顔をしてないのがいいよね」


玄関でひとりごとをつぶやいて、足をとん、と鳴らして外へ出る。


いつもなら、雨の日はちょっと億劫で、歩幅も狭くなりがちだけれど、今日はなぜか足取りが軽い。


駅までの道の途中、水たまりを避けずに歩く。

ぴちゃ、ぴちゃ、と靴が音を立てるたび、ちょっとだけ楽しい。


信号待ちのとき、横に並んだ小学生が、ちらりと足元を見て言った。


「お姉ちゃんのくつ、かっこいい!」


「ふふ、ありがとう。これはね、長靴なんだよ」


目をまんまるくして「えっ、うそでしょ」と笑う。

その顔につられて、自分も笑ってしまった。


雨に濡れてもいい靴って、なんだか「気にしなくていいよ」って背中を押してくれるようで、心がすっと楽になる。


濡れることを怖がらなくていい。

失敗も、ちょっとしたズレも、許せるような気がする。


そんなことを思いながら、電車に揺られる朝。

窓を流れる雨粒は、まだやむ気配はない。


けれど、少しくらいなら濡れてもいいやと思える。

だって今日は、スニーカーみたいな長靴を履いているんだから。

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