コンディショナーとシャンプー
朝。
起きてからバタバタと着替えて、パンをひとくちかじって、靴下を履くのを忘れて玄関で引き返して。
なんだか今日は、ずっとタイミングがズレていた。
夜、ようやく帰宅してシャワーを浴びる。
湯気がゆっくり立ちのぼるバスルームで蛇口をひねる。
お湯が背中にあたる感触が、少しだけ「おかえり」と言ってくれたようで、気が緩んだ。
「さて、まずはシャンプー…」
そう思って、無意識に手を伸ばし、プッシュ。
――ぬるり。
「あ、コンディショナーだ」
気づいたときには、手のひらに白いクリームが乗っていた。
あちゃー、やっちゃった、と苦笑する。
そのまま水で流すのももったいなくて、なんとなく毛先につけてみたりして。
ふぅ、とため息をひとつ。
目を閉じると、しばらく忘れていたことを思い出した。
今日の会議、タイミングを見誤ってうまく話せなかったこと。
電車で席を譲ろうとして声をかけそびれたこと。
なんでもないような顔で過ごしていたけれど、ほんとは少しだけ、自分を責めていたこと。
でも、コンディショナーとシャンプーの順番をまちがえたくらいで、こんなに笑えるんだから。
「まあ、そういう日もあるよね」
湯気にまぎれて、声に出してみた。
誰もいないお風呂場で、自分だけに向けて。
コンディショナーを先につけたからって、明日が悪くなるわけじゃない。
今日まちがえたぶん、明日はちゃんとシャンプーからはじめればいい。
シャンプーの泡がふわりと広がる頃には、少しだけ気持ちが軽くなっていた。
お風呂から出て、髪を乾かして、明日の服を選ぶ。
窓の外はもう静かで、夜が優しく降りている。
ちゃんと、整えていこう。
順番をまちがえた日も、自分を嫌いにならないように。
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