第3話ラーメン屋、それは胃袋と正体のぶつかり合い


第3話「ラーメン屋、それは胃袋と正体のぶつかり合い」


 


放課後。


俺・神谷零は、クラスメイトに囲まれていた。


 


「なあなあ、ラーメン食いに行こうぜ! 神谷も来いよ!」


「駅前の“覇王軒”ってとこ、すげえうまいんだって!」


「……ちなみに、全メニュー“にんにくマシマシ”だけどな」


 


(……なんで俺、断れなかったんだろう)


 


俺は、“普通”の高校生になりたい。

放課後は一人で静かにコンビニスイーツでも食べて過ごすのが理想なんだ。


だが断ったら「なんで?」「冷たい」「コミュ障?」ってなって、怪しまれる。

だから——来た。今、俺は危険地帯:覇王軒にいる。


 


 


【店内】


 


「いらっしゃいませェェ!!!」


 


ドスの利いた声で威嚇される。

一歩入っただけで胃袋が警戒を始めるこの空間。

照明は赤、BGMは謎の中国風ロック。殺気すら漂っている。


 


(うわ、完全に戦場じゃんここ)


 


「おい、神谷〜、ここの“地獄ラーメン”ってやついってみろよ〜w」


 


「それ、辛さレベルMAXってやつじゃ……?」


「ふっ。男なら黙って限界突破よ」


 


(やめろぉぉぉおおおおおお!!)


 


注文用紙に書かれた選択肢:


* 鬼マシ

* 煉獄マシ

* 天翔マシ

* そして、**裏メニュー:絶鬼**


 


(ネーミングセンスが某組織のコードネームと被ってて吐きそうなんだが)


 


周囲が盛り上がる中、俺は「普通盛・味薄め・油少なめ・麺かため」と書いた。

慎重に慎重を重ねた生存戦略。


だがその瞬間——


 


「神谷くんって、意外と味に保守的なんだね」


 


——花守心音、着席。


心音「私はこれ。“絶鬼(ゼッキ)”にしてみた。名前がかわいくて♪」


 


かわいくねぇよ!!

裏メニューの“絶鬼”って、俺がかつて倒した敵組織の幹部の名前と同じなんだが!?


 


 


【着丼】


 


俺の“普通ラーメン”、到着。


……なのに。


周囲の視線が、俺のラーメンに集まる。


 


「神谷、それ……なんか見た目が逆に“完成されすぎて”ね?」


「バランス完璧すぎね?」


「本当はグルメ系YouTuberとかじゃないよな?」


 


(バランス考えて選んだだけだよぉぉぉ!!!!!)


 


そのとき——事件が起きた。


 


「……っ!? 辛っっっっ!!」


仁が地獄ラーメンを食って泡吹いた。


椿はなぜかスープの湯気で髪型が崩れて「私の統制が……」とか言い出した。


美月はラーメンに話しかけ始めた。「お前、味濃いな……生き方か?」


……全員、被害者である。


 


そんな中、俺は黙々とラーメンを食う。


何も起こさず、普通に、静かに。


なのに——


 


「神谷くん、すごいね。

 あんな暴力的な空間で一切表情変えないなんて」


 


心音の言葉に、箸が止まる。


 


「もしかして……“訓練”されてるの?」


 


「いや!? 違う!! 俺はただの一般人!!」


 


(やばい、これはもうバレる一歩手前……!)


(……ダメだ、ここは“ごまかし最終奥義”を使うしかない)


 


俺は——


スープを一口すすると、ビクンと体を震わせ、

「ふおおおおおぉぉぉお!!!」と大声を上げて、のたうちまわった。


「な、なんだ!?」「どうした神谷!?」


「か、辛っ!! このスープ、辛っっ!!!」


「お前、普通の頼んだんじゃなかったっけ!?」「味薄めでそれかよ……」


 


(よし、“辛さに弱いアホ”キャラで押し切れた……!)


 


心音は黙って見つめていたが——やがて微笑んだ。


 


「……ふふっ、そういうところ、ほんと不思議だね」


 


 


【帰り道】


 


「なあ神谷、また行こうぜ! 今度は“麺の墓場”って店!」


 


(お前らマジで胃袋どうなってんだ!?)


 


夕焼けの帰り道。

俺は静かに、そして必死に心の中で叫んだ。


 


「普通の……普通のラーメン屋に行かせてくれえぇぇぇ!!」


 


> ——元最強の殺し屋、今日も胃袋と命を削りながら“普通”を演じ切った。


 


——第3話、完!


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