第20章 研究室の訪問、そして新たな発見
悠人からの告白を受け入れ、恋人として歩み始めてから数ヶ月が経ち、結衣の大学生活は、希望と知的な刺激に満ちていた。特に、悠人とのデートは、ただの「お出かけ」ではなく、互いの知的好奇心を刺激し、深め合う貴重な時間となっていた。高校生の頃とは違い、大学ではそれぞれの専門分野が明確になり、多忙な日々の中で物理的な距離が生まれることもあったが、二人の絆は、揺るぎなく強まっていた。結衣は、悠人の研究内容をもっと理解したいという強い思いから、彼の研究室を訪れることを決意した。
約束の日、結衣は、少しだけ緊張しながら、悠人の研究室がある棟の扉を開けた。廊下は、様々な研究室から漏れるPCのファンの音や、議論の声で満ちていた。これまで足を踏み入れたことのない領域に、結衣は胸の高鳴りを感じた。
「結衣、こっちだよ!」
奥の部屋から、悠人の声が聞こえた。結衣が研究室に入ると、そこには、無数のディスプレイと、複雑な配線が張り巡らされたサーバーラックが目に飛び込んできた。研究室には、悠人以外にも数人の学生がおり、それぞれがディスプレイと向かい合って、真剣な表情で作業をしていた。
「すごい…まるで秘密基地みたいだね!」
結衣は、興奮を隠せない様子で言った。悠人は、そんな結衣の反応を見て、少しだけ照れたように笑った。
「秘密基地、か。まぁ、そんな感じかもしれないね。ここが、僕がいつも使ってる席だよ」
悠人は、自分のデスクに結衣を案内した。彼のデスクの上にも、何台ものモニターが並び、それぞれに複雑なコードやグラフが表示されている。その中でも、特に結衣の目を引いたのは、ディスプレイの一つに映し出された、無数のプログラミング言語のロゴが並んだ壁紙だった。Python、C++、Rust、Go…そこには、結衣がまだ触ったことのない、しかし、これから学びたいと思っている言語のロゴが、ずらりと並んでいた。
「悠人、これ、全部使えるの!?」
結衣が驚いて尋ねると、悠人は小さく頷いた。
「うん。研究内容によって、使う言語もライブラリも違うからね。特にAIの分野だと、Pythonが主流だけど、パフォーマンスを求めるならC++やRustも使うし、並行処理にはGo言語も便利だ」
悠人の言葉に、結衣は改めて彼の知識の深さに感銘を受けた。彼は、常に新しい技術を学び続け、それを自分の研究に活かしている。その探求心に、結衣は強い憧れを抱いた。
「今日は、僕が今取り組んでいる画像認識AIについて、少し説明するね」
悠人は、ディスプレイの一つに、ある画像を表示した。それは、様々な種類の動物が写っている写真だった。
「このAIは、写真に写っているのが何の動物なのかを、自動的に判別するんだ。例えば、これが犬なのか、猫なのか、それとも鳥なのか…」
悠人が説明しながら、AIが画像を解析していく様子をデモで見せてくれた。画像が読み込まれると、AIは瞬時に画像を解析し、画面上に「これは、犬です。確信度98%」といった文字を表示した。
「すごい! 一瞬で判別できるんだ!」
結衣は、その精度の高さに驚いた。これまで、AIのニュースは、漠然としか聞いていなかったが、実際に目の前でその性能を見ると、その可能性に圧倒された。
「これは、ディープラーニングっていう技術を使っているんだ。大量の画像データをAIに学習させることで、画像の特徴を自動的に見つけ出すことができるんだ」
悠人は、結衣が理解できるように、専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明してくれた。彼の説明は、まるで複雑なLinuxのシステム構成を、一つずつ丁寧に紐解いてくれるようだった。
「学習データが多いほど、精度が高くなるんだ。だから、僕たちの研究室では、数百万枚もの画像データをAIに学習させているんだ」
悠人の言葉に、結衣は驚きを隠せなかった。数百万枚もの画像データ。その膨大な情報を処理するために、どれだけの計算リソースが必要なのか。そして、その裏側で、Linuxが重要な役割を果たしていることを、結衣は直感的に理解した。
「じゃあ、このAIの学習も、Linuxのサーバーでやってるの?」
結衣が尋ねると、悠人は頷いた。
「もちろん。大量のデータを高速で処理するには、Linuxが最適なんだ。安定性も高いし、GPU(Graphics Processing Unit)を効率的に使うためのライブラリも豊富だからね。うちの研究室のサーバーは、全部Linuxベースだよ」
悠人は、そう言って、部屋の隅にある巨大なサーバーラックを指差した。そのサーバーラックからは、熱を帯びた空気が放出され、PCのファンが唸るような音が響いていた。その音は、まるで、AIという巨大な頭脳が、絶えず思考し続けていることを物語っているかのようだった。
悠人は、続けて、彼の研究の核心部分について説明してくれた。それは、ただ画像を認識するだけでなく、画像の中から特定の「感情」を読み取るAIの開発だという。
「例えば、この写真に写っている犬は、今、嬉しいのか、悲しいのか、それとも怒っているのか…それをAIが判別できるようにするんだ」
悠人の言葉に、結衣は目を丸くした。感情認識AI。それは、単なる画像認識を超えた、より高度な技術だ。
「でも、どうやって感情を判別するの? 犬の表情って、人間みたいに分かりやすいわけじゃないし…」
結衣の素朴な疑問に、悠人は優しく答えた。
「それが、この研究の難しいところなんだ。だからこそ、様々なデータセットを使って、AIに学習させているんだ。犬の表情、体の動き、鳴き声…色々な情報を組み合わせることで、より正確な感情認識を目指しているんだ」
悠人の言葉を聞いているうちに、結衣は、彼の研究に対する情熱が、どれほど深いものなのかを痛感した。彼は、単に技術を追求しているだけでなく、その技術が、社会にどのような貢献ができるのかを真剣に考えている。彼のそんな姿勢に、結衣は改めて尊敬の念を抱いた。
研究室の訪問は、結衣にとって、単に悠人の研究内容を知るだけでなく、彼女自身の知的好奇心を、さらに深く刺激する経験となった。彼女は、AIという未知の世界の扉を開き、その奥に広がる無限の可能性に魅了された。そして、その全ての根底に、LinuxというOSが、まるで縁の下の力持ちのように存在していることを改めて認識した。
「悠人、私、もっとAIのこと、勉強したい! 私にも、何か手伝えること、ないかな?」
結衣は、目を輝かせながら悠人を見上げた。彼の研究への情熱が、結衣自身の心にも、新たな炎を灯したのだ。
悠人は、結衣の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
「もちろん。今度、AIの基礎を学べるオープンソースの教材を紹介するよ。そこから始めてみたらどうかな?」
彼の言葉は、結衣にとって、新たな挑戦への招待状だった。悠人との出会いは、彼女のLinuxライフをより深く、そして豊かなものにしただけでなく、彼女自身の未来の可能性を、無限に広げてくれた。悠人と共に、未だ見ぬ技術の世界を探求していく。それは、結衣にとって、何よりも刺激的で、希望に満ちた未来だった。
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