第15話 物的証拠はどっちだ


 その二階にある柱はあれど一望に見渡せるオフィス内……一角に設けられた警備用コーナーの防犯カメラ映像を、銭湯側責任者の女性店長と、男女の警官がチェックしている。

 他にここには俺と姫華。

「……警備モニターはこのパソコンで管理しています」と今日の日付の防犯カメラファイルをクリックする女性店長。

 続いて男女の警官が口を開こうとするが……。

「……元々星の湯の出の私の夫が、この地に起業してはじめたのがこのスーパーな銭湯パラディアンなのです」とかいつまんだ概要を説明する女性店長。

「……」また口を開こうとする男女の警官……。

「数分前の……(画面に某はカメラ映像を出して)食堂付近の、はぁ……(マウスをスクロールし)あ! あった。ありましたよ(クリックして画像を停止状態にして)このあたりでしょうか?」と後ろで覗き込んでいる両警官の顔を見る女性店長。

「では再生してください」と女警官。

 頷いて、『再生』画面ボタンに矢印を合わせてクリックする店長。

 画面いっぱいに映し出された防犯再生映像――食堂ドリンクバーからお渡しカウンターへと続く当たりの余地で、黒いドリンクが注がれたコップを持つ姫華に、何やら口を利くさっきのニッカポッカ野郎ども……。

 笑顔を困ったちゃん顔に変化が伴う姫華の顔。

 画像解像度は並みで、まあまあ表情も判別できる。

 行こうとする姫華。肩に手を置き振り向かせる野郎の一人。

 何やら……ぼそぼそ……告げる口パク姫華。

 次の野郎が……愛想笑いで口を開く。

 もう一人が、態度を変えぬ姫華にキレたか? 凄む顔つきで何やら、角口かげんで言う。

 と! 三人に対して平均的に正対する姫華。と思った瞬間に。腹や太腿や股間をそれぞれに抑えて蹲り……悶え痛がる様子の三人野郎ら……。

 行こうとする姫華だが、振り返り野郎らを見ると。歪む顔で何かをそれぞれに訴えかけている風な……未だ悶絶中の様子……。

 プリっと、そっぽ向いて。スタスタと行ってしまう姫華。その手に常にあったコップ八分目状態の黒きドリンクは……その間一滴の零れどころか、波さへうっていない!

「もう一度見せてください。店長さん」と男警官。

「別の角度からにはないのですか?」と女警官。

「はい」とマウスでパソコン画面上、再生前に画像を戻す店長。

「解像度を上げるとかは?」と男警官。

「はぁあ。出来ません。ここではこれで充分です!」と女性店長がここはきっぱり言う。

 その合間に現在の防犯映像も映り……吹き抜けロビーはさっきよりも混みあっている。


 ここに来る前に……。

 姫華に絡んだニッカポッカ野郎らは無罪放免でもいいのか? 一応の職質はしたもののロビーに放置してきているこの警官ら。

 姫華にやられた具合が回復していて動けるようになっているニッカポッカ野郎らに。

「いいぜ。逃げても。子ワッパどもが」と俺が悪たれ釘刺しをしてきているのだが……。

「子ワッパだと」

「なめんなよ、おっさん」

「ぼくらは逃げる必要はないんだ。悪いのはその女だよ」

 と言い返して吹き抜けフロアのまずまずだった人並みに紛れて行った三人野郎……。


 俺の悪たれ釘刺しにエントランスのどこかにいるであろう。が、帰ったかもしれない。

 録画を見ては別のカメラアングルを切り替える度に、今のエントランスがモニターに映っていて、案の定奴らが喫煙所で電子タバコをふかしているのが見えた。

 ちなみに大型のモニターなので、目を竦めずして見える。

 が、同じところを幾度も再生しては、首を傾げる男女の警官……。

「どうして? 行き過ぎるの?」と女警官。

「巻き戻し機能が、壊れていますか?」と尋ねる男警官。

「いいえ。この前。そこの電気屋さんに定期点検を受けていますので、故障は無いですよ」と店長が棚のペーパー資料ファイルから証明書を出して、見せる。納得する警官ら。

 と! 並び座る隣の姫華が、そういえば防犯カメラ映像再生開始辺りから、所謂フリーズ状態に入っていたようで、微動だにしていない。

 防犯カメラに気がいっている警官らの目には、当然触れることもない。おそらく姫華がその体内に隠された無線ランでこの銭湯のインターネットにでも内通して……ハッキングの遠隔操作を行っていると。何となくの俺。

 ま、俺は素知らぬ顔して大型モニターに映し出される映像を眺めている……。

と、隣の右手がこの左手を甲の方から握ってきた。人肌に温い。

「そんなぁ。どうして?」と男警官。

「ここで。さっきの三人が、カノジョさんを囲っているわね」と女警官。

「これは音声は出ないのですか?」と男警官。

「はい。風呂屋ですので。映像も問題がなければ一年置きして消去しています」と店長。

 改めカメラ映像には……。

 男性警官がコンピュータ処理をするも、映像は――アイスコーヒーが入ったコップを持った姫華に、彼奴らが囲むように何やら言って迫っている――様子の映像しか出ない。

 ――何もしていなくただ手を振ったり顔を顰めたりするが。一切手を出していない姫華に。執拗異常に囲って迫るニッカポッカ三人野郎が、突然銘々に体の部位を抑えつつ……蹲る――映像なのだが。一般的な映像処理機能のカメラ映像なので。姫華が本領発揮速度は明確には映らないようで――。

 もしかしたらと、俺は久々でできるかは自信がなかったが、目を凝らして映像をみる。

 俺にはもともと備わっている千里眼ならぬ百里眼が意思の疎通で使えるようだ。

と――迫り過ぎた三人野郎へと、姫華から黒い筋がシュッ! シュッ! スッ! とコップは右手で持っていたので、左手が二回と右足が一回筋を帯びている――のがこの目には見えた。

「へええ……にかっ」と姫華を見る俺。

 角度から姫華の右上やや斜め三十度推定角度でも、愛らしい子猫フェイスのボディフォルムスレンダーながらオッパイがお椀型にそれなりに主張しているいい感じの、改め惚れ直すこのスケベオヤジを自覚している俺。

「え? なに?」

 この視線を感じたのか? フリーズを解いた姫華がこっちを見てくれる。

 目が合って……さらに密着度合いを上げてきた姫華。この左肩に右側頭部を預けてきたので……俺もお返しにこの左側頭部を優しく触れて、スリスリする。と、「うふんっ」と漏らした姫華が、俺を見つめるので、瞬時にお巡り二人と責任者の様子を盗み見るとカメラ映像に集中しているので、単発チュッ! を交わした。

 また見つめ合い、互いににかっとして……肩に来た側頭部に、この側頭部を乗せてスキンシップ状態に入る俺たち……。

「どういうことだ?」

「どうして?」

「これを見る限り、お巡りさん。この三人が悪いよ」と女性的感情できっぱり言う店長。

「……」「……」言葉無く渋る仕草を銘々にする警官さんら……。

「では。どうしてさっきの方々は……」と胸前で腕を組む女警官。

「あの痛がりようは、演技とも思えないんだが……」と男警官が頬を擦って悩む。

「さ? 私には無関係なことですので」と店長。

「まあ」「ごもっとも」と警官らが店長後頭部から互いの顔を見て頷きあい……俺らを見て。

「歩里井ケイベンさんたち」と女警官。

「今日のところは、帰って構わないですよ」と男警官。

「……」その言い方に釈然性を欠く俺だが……つべこべほざくと、「公務執行妨害」がお決まりで、厄介なことになるのは、これ以上勘弁なので。

 俺がスーッと立つと。真似して姫華もスーッと立って――首を傾げる程度に会釈して、このオフィスを出て行く……。


 オフィスを出た外は……吹き抜けロビーで下や二階の多数の休憩室からの人の声やらでザワザワなノイジィーな感じでこの声さえ紛れる。

「たっくうう。御免なさいが言えんかね」と俺が漏らす。

「威厳? 警官だし」と姫華が皮肉る。

「ま。しゃあねえから」

「ん」

「まだ言い切ってねえぜ、俺」

「うん。分かってるよ。ダディ」

「何がだ?」

 恋人手繋ぎで階段を降りる俺たち……。「車だし。とっとと帰って、吞むんでしょ。ビア」

「ほほ。わかってるなお前さん。話やすぅ」「ダディの恋人でしょ、アタシって」と降りる。



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