第14話 ナンパ野郎をぶっ飛ばした方が、罪?
この食堂はパラディレストランの名がついていて、ジモピーらはパラレスと言っている。
俺と姫華は銘々に食券を買って、食堂受付のお渡し兼厨房直カウンターで券を店員に渡し。こういった飲食店では馴染みとなった整理番号札をデバイス化した俺自称の『コールさん』を銘々にもらって……二人用のテーブル席に着く。俺のは4で、姫華のは5だ。
ブルッときてピーピーと鳴りだすコールさんは姫華の5が先だった。が、行こうとしない姫華に、「それ、持って、行って、注文したのをもって来るんだ」と俺が教える。
「あ、そうなんだ」と姫華が5のコールさんをもって……教えたとおりに行って、パスタセットの俗に言うタラコパスタとサラダ付きがお膳に乗っているのを持ってきて。またドリンクバーに行って、何やらの野菜っぽいニンジン色の飲み物を持ってきた。
「へえぇ」
「なに?」
「普通だな。女子的にも」
「ええ?」と苦笑いする姫華。
「まあいいや。あれこれここでの詮索は人目があって厄介だぜっ。お!」
ブルった俺の4のコールさんが遅ればせながらピーピーと鳴る。
俺は行って、戻ってきた。俺は盛り蕎麦とろろを食うのがお決まりになっている。
すでに普通に食べ始めている姫華……サラダの内容はレタス少な目千切りキャベツ多めでゴルフボール程度のポテサラだ。各種セルフなドレッシングはシーザーサラダのようで、好みが俺とカブっている。
と普通なことが不可思議でもあるのだが。ま、本人がいいのなら問うことをしない主義の俺だ。俺自身が、できることや物の好みに一々突っ込まれたくないし。どうでもいいその者の勝手な事には、よほど俺に関心が無い限りほおッておく気質だ。
聞かれても、どうでもいい奴には、「そうだ。何か問題でも?」と返すのが俺のお決まりで、勝手に聞いといて俺の答え方がつっけんどうなのを、被せて指摘してくるのが落ちで、これまた厄介だ。
と、蕎麦をとろろインだし汁につけつつ……ズルッズルッと食っているうちに、最後の蕎麦をもズルっと食い終わり。姫華を見るとニタっと笑って。
「美味しそうに食べるね、ダディは」と何かほっこり顔の姫華。
親しくないと気づけない笑顔で返事するのが癖になっていて、俺なりの微笑みを返す。
「まだ行かないよね。ダディ?」と、俺の返事も聞かずに、空いた皿のお膳にコップも乗せて……お膳を返却口に返し、コップのみを手に再びドリンクバーに行く姫華。
俺は、カウンター隅に置かれている蕎麦湯の入ったポットをもって戻り。余した薄口になっているとろろだし汁に蕎麦湯を注いで……再びポットを所定の位置に返す。
この蕎麦湯は一回目は無かったので、「お姉さん」と現実四、五十代であろう女子店員に、「蕎麦湯ってないのか?」
「蕎麦湯?」と、知らないようだったので。
「ああ、そばをゆでたときに出る残り湯のことだ。それを食べ終わった残り汁に注いで飲むんだ。蕎麦食いの締めになるんだぜ。お姉さん」と言うと。そのときはまだ捨てていなかったようで、汁椀にオタマで注いでくれた。「これでいいのかしら?」
「ああ。ありがと」とまだ暖かさが残る汁椀を頂き戻り、ゆったりと……飲み干した俺だった。
と、二回目からはポットに入ってあったのが……むこうも別の客の調理にあくせく状態だったので。それをもって席に行き……残り汁に入れて、すぐさま戻しに来ると。
「ああ、お兄さん。アドバイス有難う御座います。お陰で、私、褒められちゃった店長に。これ、よかったら。私からのお礼よ」と内緒でソフトクリームをくれた。
で、回想から覚めて。姫華が戻ってきていない? ドリンクバーまでは推定歩数往復でも三十歩前後なのに、未だ戻って来ていないのはおかしいと、目視する俺。
バシッ! ドスッ! ボーン! と鈍い物音がこの耳には聞こえたので、俺が目を凝らすと。ドリンクバー横の比較的物陰で……黒い液体がそれなりに入っているコップを片手に姫華が仁王立ちして。周囲に蹲っているニッカポッカ野郎ども三人居るのが見える。周囲の他の客は気がついてもいないようで、好き勝手にやっている。
「あれ?」と俺は思い出した。俺たちが入店時の下駄箱前で、俺と姫華の間を割って入って行った野郎どもだと。
「……だし!」と蹲る三人にしか聞こえないサブリミナル効果的声で何か言っているようだが、得意の語尾しか聞こえない。が、姫華の口パクからここで見ている俺にも伝わった。
戻ってきた姫華は、アイスコーヒーが注がれて、一滴も零していないコップを持っている。座って口元に持っていくも、俺に物言いする姫華。
「ダディ、聞いて!」とようやく一口啜って、「……ふうん。彼奴らったら、アタシに気があるみたい。さっきも待っているときに(と風呂を出たときに待ち合わせした辺りを指差して)しつこくナンパされて、毅然と断ったのぉ! 連れ(ダディ)いるし。それに趣味じゃないし」と、その間普通の女子に小言を聞かされているように俺はコクリコクリと頷いて……聞いていて、「ダディがいても趣味だったら。ご飯ぐらい驕らせてやるのに。なにかダサくて」と残りのアイスコーヒーをゴクゴク……と飲み干して、「行こッ。ダディ」と俺にかまわず立ち上がる姫華。
呆気に取られている俺は……ようやく我に返って、「ああ、あ。はい」と蕎麦湯も飲み終わった膳を返却口に戻す。その間コップのみだった姫華の方が先にロビーとの境ぐらいまで行っていて、俺の方を見ている。
……その後ろから、どう見てもその制服がその証の警察官男女が……姫華の後ろに迫っているのが分かった。
まあ、エントランスは二階の天井まで吹き抜けている。客たちのざわざわが充満中なので、後ろからかけたのであろう言葉に気づかずの、女性警官に肩を叩かれ振り返る姫華。
「あなたがあの人たちを伸したのかな?」と男性警官。
「え? 伸した?」
「暴力振るったのでしょ」
「暴力?」
「とぼけるなよぉ……」
「お前が殴っただろう……」
「ぼくたちがアスリートで手が出せないことをいいことに」
とそれぞれが抑えている部位が違えど、顔を顰めている。
「あんたたちが、さきに、嫌がるアタシにしつこく仕掛けてきたんだし」
「でも、俺たちは」
「手は」
「出してませんよ」
「どうでもいいけど。ほんと。変に息があっていて、キングギドraだし」
「それで。殴ったのは事実なのですか?」
「……」と気まずさを察知したように口を開かず考えている様子の姫華。顔を下に向けていて、動かない姫華は検索状態が、一番俺は思いつく。
「どうしたんですか? お巡りさん」と俺がしゃしゃり出る。ま、連れの姫華のことだし、俺もしぬ事情を訊く必要もある。
「貴方は?」と女性警官。
「カレシだ」
「え? 年の差が……」
「親子でもいい感じですがね」と警官ら。
「それって問題発言じゃねえの? あんたら警官さんには」と、俺は反撃チャンスと突っ込む。
「どこがです?」
「貴方が割り込んできたので、必要な事情聴取ですが」
「で、少しでも気に入らなければ、公務執行妨害で連行ってか。お話を聞くだけですから、とか軽めに言って、ついて行けば。署内に入ってしまえば一般人の目もないのでやりたい放題になるしな」
「そんなことは無いですよ」「そんなことすれば、わたしらが職権乱用で罰せられてしまう」
「建前上はな。事実は言えないよな。こんな公の場では」
さっきのがスマホレンズを向けている……性懲りもなく、別機種だ。
「ま、俺のカノジョが此奴らに何かしたとすれば。此奴らが先に仕掛けてきてると思うがな」
「言葉遣いもなっていないんだな、君は」と男性警官が。
「ほおぉ。今度は別口から絡める策に転じたか? お巡りさんよ」と語尾に移るにつれ……トーンを低くする俺。
「愚弄する気か、君は」と男性警官。女性警官は場を見守っている。
「ま、俺じゃなく今はカノジョと彼奴らのいざこざだろ疑いじゃ。若造のお巡りさんよ」
「だから。その言い方を改めなさいと、言っているのだが。君」
「よおし。物的証拠を見せろよ。それに、お前さんは、人の見た目情報に惑われ過ぎているな。若造お巡りさんよ」
「このまま愚弄を続ければ、次は執行妨害を適応する。いいな、君」
「……」ここは声掛け返答なしにただただ小僧っ子お巡りをガン見の圧をかける俺。
「なら、この店の防犯カメラは……」と女性警官が天井などを見渡し……ことが起きたあたりを映していそうなカメラに見当をつけている。
「アタシらも、同席できるのよね。お巡りさんたち」と姫華。
「いいえ。一般人の情報もあるので、法的権限がある私ら警官と、立ち合いのこの店の責任者だけよ。ただ、来てはもらいますが」と答える女性警官。
「それでは、アタシらの言い分は、映像を見ながら伝えられないし」
「それが、決まりなもので。ごめんなさいね。カノジョさん」と女性警官。
「いいぜ。でもそれって冤罪を増やす一方通行なやりかたなのが、未だ分かっていないんだな」
「いい加減にしなさい。君」と男性警官。
「そちらの彼氏さん。お名前とお年を教えてください」と女性警官。
「名前は、この状況では勘弁だが。五十×歳だ」
「え?」と顔を手で覆う男性警官。明らかに俺との年齢差が分かっておらず。自分の方が年上若しくは同年代と決めつけていたようだ。
「お若いですねえ。」と、言い過ぎていたことは分かったようだが、やっぱり警官は謝らない?
「ま、いいさ。若輩者的警官さんには、人の年を的確に見破るすべは備わっていなくても何の不思議でもないぜ」
「ま、それはそれで。こちらのカノジョさんの暴力疑いは、晴れていません」と男性警官が切り替える。
「アタシ? いいよ。早く確認してきて、だし」と姫華も平然と覚悟したように言う。
「何か? 急ぎでもあるのかしら?」と女性警官。
「ううん、ただ、ダディとのデート時間をつまらなくしたくないだけだし」と俺に寄り近づく姫華。
「羨ましいですね……」ともぞもぞの男性警官……。
二かっと笑う俺だが……他者にはクールスマイルに見えてしまっているであろう……な。
意識して目を些か吊り上げた男性警官が、行こうとする。「では」
「でも、こうなっては、こちらの年の差カップルさんは、オフィスまではついてきてくださいね。今の状況では、逃げられるのは困るもので」と女性警官。
俺は真っ先に姫華を見るも。姫華も同様に俺を見ていた。このアイコンタクトが意味することは……俺たちだけの秘密のことだ。光浪の婆さんがこの惑星に戻ってこない限り。他者には勘づかれでもすると、なんやかんやと厄介だ。
にしても。さっきから俺たちのやり取りを、口も挟まずに見守っている銘々な患部を抑えているナンパ野郎の御三方……。
「で、此奴らは?」と俺が問う。
「ああ。いいですよ。見るからに被害者のようですし」と女性警官。
「でも、戻って暮れまでは館内にいてくださいね」と男性警官。
「何かコネでも、あったりして……」と探る俺。
『……』二人の警官は正面を向いたまま気求めずに歩き続けている……。
「そういうんじゃ、なさそうな気がするし。アタシッ。ダディ」
軽く歩くのに支障のない程度に添付している姫華がこそっと俺に言う。
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