第26話「兄弟姉妹の成果と焦り」

#第26話「兄弟姉妹の成果と焦り」


 弟のカイがヴェルド領に帰ってきた。カイも我がヴェルド領が貧乏だったので外に出さざるを得なくなった兄弟姉妹のうちの1人だ。


 ルカの騎士団改革、そして騎士団の頑張りでヴェルド領の財政状況が良くなり一人一人と兄弟姉妹帰ってきている。7人のうちこれで4人目が帰ってきたことになる。本当にルカやみんなの功績は大きい。私は長女なのに何もできていないのが少し心苦しい。



 カイはリューガ領で主にものづくりの経験をしてきたと聞いている。大工、工房、土木までなんでもできるらしい。


 ただ父さんも母さんもカイがもうすぐ帰ってくると言っていたが予定よりも早い。嫌なことでもあったのだろうか?カイは物静かな子。今も小さい頃からあまり変わっていない。だから性格的にも辛いことがあったのかも。



 と思っていたのだが……どうやら大きく変わった部分もあるみたいだ。


 家の中に入ると急に語り始めた。


「ねえ、家具とか古くなってるけど、直していい?まず椅子のバランスが悪い。3mmほど歪んでいるよ。あとこの机は駄目だよ。あと1年も持たない。何でこんなことに?でもこの木目調は貴重、何とか残したいな」と機関銃のように言い始めたのだ。


 私と母さんはあっけにとられた。こんなにしゃべる子ではなかったはずだ。どうやら仕事になると性格が変わるタイプらしい。


 母さんは「もちろん、いいけど時間がかかるんじゃない?」というと、


「こんなのすぐだよ」と言って作業を進めていった。


 そしてルカはいつものように物おじせずしない。カイと一緒に作業を始めてしまった。 

 最近は兄弟姉妹が帰ってきてくれて嬉しいけど、ルカはこうやって兄弟姉妹と一緒に積極的に絡んでいく。私との一緒の時間が少し減って寂しい。



 そしてしばらくして私と母さんはびっくりした……


 我が家の内装が変わってしまったのだ。見た目にまるで新品のよう。実際に触ってみても違う。ドアや戸棚の軋みが無くなっている。


 まるでカイとルカは魔法の手を持っているかのようだ。


 そうして家の中を軽くリフォームするとルカとカイは今度は牧草地を見に行くと言う。職人の目で問題がないかチェックし何かあれば改善していくとのこと。



 最近は……こうやって私のいないところでいろいろな話が進んでいく。


 気づけば兄弟たちはみんな、それぞれの場所で成果を出し始めている。


 ガイル兄は騎士団を率いて、魔物討伐の効率を飛躍的に上げた。おかげで領に入る討伐報酬は以前の比ではない。


 マルク兄は農産物の生産を軌道に乗せ、これまで不足しがちだった食糧事情を一気に改善させた。


 酪農に出ていたエマも我がヴェルド領で酪農を進めるらしい。そしてカイは帰ってきてすぐにモノづくりで早くも成果を出し始めている。


 そして、そのどれもにルカが関わっている。


 ルカと兄弟姉妹のみんながどんどん結果を出している。



 ――そんな中で私は……。


 最近、他領から討伐依頼が増えたことで、魔法使いとして成長したと褒められることも多くなった。それによる収入も少し増えた。


 ありがたいことだと思う。でも、それが領の何を変えただろう?


 もちろん討伐報酬は確かに領の助けになる。だけど私がやっているのはそれだけだ。


 ルカみたいに新しい何かを生み出したわけでも、兄弟姉妹のように仕組みを動かしたわけでもない。


 私は小さい頃からずっと「領を支えるのは私しかいない」と思って努力してきた。ずっとそう信じて、魔法を磨いてきた。


 でも領は何も変わらなかった。

 そして気づけば領の状況はルカを始めとした兄弟姉妹の活躍で大きく改善している。



 ――私だけが。

 魔法しかできない私だけが取り残されているんじゃないか。


 わかっている。それでも私には魔法しかない。だから誰よりも魔法を磨いて強くなるしかない。


 それが私の道だと、頭ではわかっているのに……


 胸の奥に、重く小さな焦りの棘が突き刺さって抜けない。

 こんなことでは今にルカにも愛想をつかされるのではないか?


「……頑張るしか、ないんだよね」

 小さく呟いてみても、不安はどこかで残っている。


 それでも足を止めるわけにはいかない。

 私にできるのは、ただ魔法を研ぎ澄ますことだけだ。みんなのように大きな一歩ではないかもしれない。


 それでも努力して成長し、少しでも領に貢献していこう。

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