第4話 美しき桜は散らせずに。

男女


女性は母性本能から、男性は性欲から恋愛が始まるという話を聞いたことがある。

どちらも、汚れず、神が与えたとされるその性に従って欲求の違う2人の恋が始まる。

また、こんな話も聞いたことがある。

女性は行動に移すよりも、心の浮気をすることが多いと。

付き合っている男性がいる状態で、他の誰かを好きになり、その人に彼との相談をする。そして、別れた時に付き合う。


卒業式


私と彼女の躊躇いだらけの恋愛はだらだらと続き、いつしか卒業式を迎えていた。

私はあの日、極力美しくあろうとした。

今までずっと不自由で、何か抗議しても聞く耳を持つどころか理解もできない馬鹿たちの前で、私は私らしくいる証明、頭一つでた所作、容姿、性格、目力。それが欲しかった。

その日のために体型管理やスキンケア、姿勢改善などを本気でやって、当日、私はあの時確かに輝いていた。

泣くことも、笑うこともなく、卒業式が終わってすぐ、寄せ書きも貰わずすぐに帰った。

そして、人生の全ての面にて秀でることが私の唯一できるあいつらへの復讐だと思った。

私は今でも、何をやらせてもできる人だ。

まあ、1番にはなれないのだけれど。


私。


進学先で、そこは私のニッチにあった環境だった。

あの胸糞悪い言葉も、システムも、全部置き去りにして、本当に常識だけの数少ないルールと、あとはみんなで至らないところは話して決める。

居心地が良くて仕方がない。

ずっとここにいたかった。

でも、一つだけ。

私が完璧を求めるにつれ、色んなことを努力していくにつれ。

私にあったはずの趣味がいつの間にか消えていた。

会話術とか、垢抜けとか、髪質改善とか、ダイエットとか。そんなことばかりで。

私、今まで何して過ごしてたんだっけ。

私、どうやって素で人と関わってきたんだっけ。

私、

私って。

落ち着いて過去を考えてみる。

趣味はなんだった?

絵を描くこと、アニメ、漫画、小説、音楽。

今、私はこれらを順位で取ることしかできない。

私は誰より優れていて、誰より劣っているのか。

私より優れている人には、どのように優位に立てば良いのか。

自分のレベルに合った環境である代替に、私は1番でなくなることは必至だ。

私は1番になろうと必死にもがいていた。

気を張って、気を使って、常に頭を動かしていて。

もうほとんど彼女と連絡をとっていなかった。



春は別れの季節だという。

春になると進学やらなんやらで環境が変わる。

そこで、どんな関係であっても、誰か1人は必ず縁が切れるものだ。

まあ、環境が変わるだけで完全になくなるような名称もない関係なら良いものの、どちらかが別れを告げなければならない名称付きの関係は、真綿で首を絞められる苦しさと快感がある。

春の陽気の中で、桜は美しく咲かせた花を散らす。

でも、もしも私が桜の木なら、私はきっと花びらを散らせたくないと思うだろう。

あんなにも美しい花びら一枚も手放したくない。

傷ついた花びらは散ってくれと頼むのかもしれないけれど、もし傷ついてないのならば。嫌いでないのならば。

散らないでお願い。散らないでお願い。

そう言って手放さない。

美しい花びらとの関係を断つことができずに初夏を迎えるだろう。

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