第35話 筋肉令嬢、とっておきの必殺技

 騎士たちは大きく剣を振る。

 まるで斧で薪割りをしているかのような動きに、私はスッと横にズレる。

 それに動きが遅すぎて、子どもと遊んでいるような感覚になる、


「くそ! ちょこまかと動きがって!」


 さっきから何度も同じように剣を振っているが、そろそろ学習しないのだろうか。

 まだ、幼い時のルーカス様の方がすぐに学んでいた。

 それにあの時ですら、正々堂々と素手で手合わせをしていたのに騎士が情けないわね。


「惨めな騎士ね」


 つい思っていたことが口から出てしまった。


「おのれぇ、騎士様に向かってなんて侮辱……許さん!」


 さっきよりも周囲の空気が変化してきた。

 一人の騎士以外だけ残して、距離を空けるように後退りしていく。

 まるで今から必殺技でも出しますって言っているような気がする。


「魔力が溢れ出てもったいないわね」


 魔力は循環させたり、ある部位に一定に留めることで効率的に体を動かすことができる。

 だが、騎士の動きはまるで魔力が体の外に出て、剣に集まっているような気がした。


「団長の魔斬オーラブレードを目に焼きつけておけ」

「ウラギール最強の団長に目をつけられた反逆者も可哀想だな」


 コソコソと騎士たちが私の方を見て話している。

 どうやら目の前にいる騎士はウラギールの中でも最強の人らしい。

 騎士団長って言っていたから、ガレスさんと同じ役職職の人だよね?

 それなのにガレスさんみたいな強さを感じないし、コブさんの方が強そうな気がするが、気のせいだろうか。

 

「俺のオーラにビビっているようだな」


 私が魔力の動きをボーッと見ていたから、怯えていると勘違いでもしたのだろう。

 全く怯えてもいないし、むしろ魔力を放つとどんな感じなのか気になる。

 もし強ければ、私も必殺技として試してみたい。


「「「団長いけー!」」」


 周囲の騎士の声が大きくなる。

 そろそろ何て……言ったか?

 えーっと……。


魔斬オーラブレード!」

「あっ、そうそう魔斬オーラブレードだったわね!」


 急に圧縮された風が吹いたため、私は邪魔になり手で振り払った。

 魔斬オーラブレードってどんなものかワクワクするわ。

 ひょっとしたら、ウラギールが一瞬でなくなるほどかしら?

 もしくはこの世の物を全て切り裂くような……どちらにしても楽しみだ。


「さぁ、早く撃ちな……あれ?」


 私が騎士たちに目を向けると、皆が口を大きく開けて驚いた顔をしていた。

 まるで何かおかしな物を見たような感じだ。

 それにさっきまで集まっていた魔力が一切騎士団長から感じ取れない。


「あのー、魔斬オーラブレードは……」

「くっ……俺もここまでか!」

「「「団長!」」」


 騎士団長の周囲に騎士たちが集まっていく。

 まだ何も始まっていないのに、すでに終わった雰囲気がするのは気のせいだろうか。

 ひょっとしてさっき感じた風のようなものが必殺技だったのか?

 それにしてはそよ風程度で心地良かったぐらいだ。

 私が一割も満たない魔力を循環させて、手を払った時よりも風は吹いていない。


「次はこっちの番ですかね?」


 せっかく必殺技を見せてくれたなら、私も面白い技を見せてあげよう。

 拳を放つと空気を圧縮させて放つこともできるが、両手で集めるとどうなるか……。


「いっくよー!」

「「「ヒイイィィィ!?」」」


 私は両手に魔力を流して、手をパチンと合わせる。


――バアアアァァァチン!


 その瞬間、大きな音と突風が町全体へと広がっていく。

 まるで衝撃波が町の中を洗い流したような感覚だ。

 空気が澄んで、空が輝きを放つ。


「おい、何が起きたんだ……」

「全身から違和感がするぞ」


 騎士たちはお互いに見つめ合って、その違和感を探っているようだ。


「どう? 私の必殺技は?」

「お前……一体俺たちに何をしたんだ!?」


 まだこの違和感に気づかないのだろうか。

 私は正々堂々と力で戦うプロテイン公爵家の娘だ。

 正々堂々と戦うのに魔力は邪魔だし、魔法使いと手合わせする時は不利になる。

 そこでできたのがこの技だ。


「体にある魔力を全て吹き飛ばしたんです」

「ふぇ!?」

「魔力があると邪魔なんですよね。ちなみに回復には……三日はかかります」


 魔力を飛ばしてしまえば、正々堂々と手合わせができるからね。

 これで変な邪魔はされないだろうし、手合わせを楽しむことができる。


「おい……そんなことができるのか?」

「伝承に出てくる神の技で聞いたことがあるぞ!」

「ついにウラギールにも神が降臨したのか!」


 騎士たちがざわざわすると、騎士団長はその場で剣を地面に突き刺した。

 そして、片膝をつき頭を深々と下げる。


「神……いや、“それ以上”かもしれぬ……」


 騎士団長が呟いた声に、周囲の空気が凍りつく。


「これほどの力、我らが敵に回していたなら……今ここにいることが奇跡かもしれんな」


 次々と騎士団長のマネをするように、騎士たちは剣を突き刺していく。

 明らかに異様な雰囲気に、私はただにこりと笑うことしかできなかった。


「あのー、ちゃんと筋肉と拳で正々堂々と語り合いたいだけなんですが……」

「いえ、神様にそのようなことはできません」


 なぜか魔力を飛ばしただけなのに、神様・・と呼ばれるとは思わなかった。

 私を神様と呼ぶんなら、ルシアン様は何になるのだろうか。

 だが、これで怪しまれず屋敷には入れそうだ。


 まずはブレーメンやブレーメンの家族と合流するのが先になるだろう。

 捕まっているとしたら、きっと牢屋の中にいる気がする。

 しかし、それよりも私は後ろの様子が気になっていた。


「あのー、いつまで付いて来るんですか?」

「神様の……お導きが終わるまで……」

「いや……導いているつもりもないんですが……」


 騎士たちがズラリと行列ができたように、私の後ろを付いてきていた。

 隠れようにも隠れられないし、屋敷の中を堂々と歩くのもどうかと思ってしまう。


「それなら牢屋に連れて行ってもらってもいいですか?」

「牢屋ですか!? まさかそのような趣味が……」


 騎士団長はジーッと私を見つめると、にこやかに笑って、私の前を歩き出した。

 絶対何か勘違いしていそうな顔をしていたが、まずは牢屋に案内してもらうところを優先しよう。

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