第34話 筋肉令嬢、屋敷に侵入する

 屋敷の方へ向かうと、さらに逃げ惑う人々とそれを追いかける虫たちがいた。


「早く開けて!」

「俺たちを殺す気か!」


 町の外から侵入してきた虫たちは、中央へと向かって人々を追いやった。

 逃げ場を失った人々は、唯一の避難先である中央の屋敷へと殺到した。

 だが、必死に門を叩いても屋敷の門は固く閉ざされており、中に入ることはできなかった。

 人々には、虫たちから逃げきるか、町の外へ脱出するしか選択肢は残されていなかった。


「ここで終わりだ……」

「誰も私たちを守ってくれないわ」


 次第に人々は諦めの声で静かになる。


「こんなに虫がいたら、殺虫剤を撒かないといけないね」


 そんな人々の隣で、私は虫を掴んでは投げる行為を繰り返していた。

 ネザライトコアがあれば虫も寄ってこない、殺虫剤の代わりになると思ったが、そんなことしたらルシアン様に怒られるだろう。


「ケガはしていない?」


 私は屋敷の前で戸惑っている人々に声をかける。


「「「……」」」


 ただ、誰も反応がないのは何でだろうか。

 殺虫剤がダメだったのかしら?


「それにしても虫ばかりで飽き飽きするわね」


 なるべくキャッチ&リリースを意識して、虫を捕まえては投げてを繰り返しているが、全く楽しくない。

 それにまるで私が悪いと言わんばかりに、虫たちも怯えた表情をしている気がする。

 思ったよりも虫って表情豊かだった。


「あの人キラーマンティスにポイズンスパイダーを片手で投げ飛ばしてるぞ……」


 町の人がカマキリやクモをかっこいい名前で呼んでいた。

 今も私の手で掴んでいるクモのことを言っているのだろうか。

 私はクモをジーッと見つめる。

 たくさんある目が私と視線が合っている。

 ただ、今にも逃げようと手足をバタバタとさせて焦りが伝わってくる。


「やっぱり気持ち悪いわね」


 すぐにクモを放り投げた。

 我が家に住んでいるクモは体が真っ白でふわふわして可愛いのに、森にいるクモはどことなく汚い。

 それに服も編んでくれなさそうだから、使い道はなさそうだ。


 クモのシラユキはいつも枕元に、見たこともない服を置いといてくれる。

 一番嬉しかったのは汗がすぐに乾く運動着だ。

 あの服の着心地とシラユキに守られているような安心感は忘れられない。


 全部の虫を片付け終わると、屋敷の門の前に私は立った。

 きっとこの中にブレーメンの家族がいるのだろう。


「ここに入りたいんですよね?」

「ああ……」


 男に声をかけると、どこか戸惑っているようだ。

 そんなに戸惑うほど扉が重いのだろうか。


「少し待っててくださいね」


 私は足を肩幅に広げて、扉に指を引っかける。


「よっこらせ!」


 指に力を入れると、そのまま扉を持ち上げた。

 そのまま一緒に外壁もくっついているが、建て付けが悪いのね。

 ただ、今の私にとってはありがたい気がした。


「これって全身の筋トレになるわね」


 我が家の門って持ち上げることすらできないから、指の筋トレに使おうとすら思わなかった。

 それに指の先まで力が入っているから、鍛えにくい指先までしっかり使えている。


「あのー、大丈夫ですか?」


 私が止まっていたからか、女性が声をかけてきた。


「ああ、すみません。中に入っていいですよ」


 中に入りやすいように、私はそのまま頭の上まで門を持ち上げると、女性は戸惑った顔をしていた。

 誰かが入らないと屋敷には入りづらいのかな?

 ただ、門を持ち上げているから、私が先頭で入ることはできない。


「んー、壊すか!」


 外壁はあとでトカゲさんに頼めばすぐに作れるだろう。

 私はそのまま門も一緒に森の方へ投げておいた。


「さぁ、中に入りましょう!」


 私は町の人たちと屋敷の中に入ろうとしたら、金属が打ち付けられるような音が重く響く。


 騎士たちが一人、また一人と現れ、次々と鎧を着た人たちが集まってくる。

 私たちの周囲を囲むように立ち並ぶ。

 皆、無言のまま、兜の奥からこちらを見据えていた。


――ジャキン!


 剣が一斉に抜かれる音が重なり、冷たい刃先がこちらへと向けられる。

 息を呑む暇もなく、緊張が空気を固く縛る。


「反逆者めウラギールに何のようだ!」


 声が屋敷の庭先で響く。

 反逆者ってどこにいるのだろうか?

 私は周囲を見渡すが、そんな人物はどこにもいない気がする。


「反逆者ってどこですか?」


 私は近くにいた女性に声をかける。

 だが、彼女は黙ったまま私の顔を怯えたように見ていた。


「反逆者はお前だ! 魔物を操って何をするつもりだ!」


 この人は何を言っているのだろうか。

 どう考えたら私が魔物を操っていると勘違いするのか、私にはわからない。

 そもそも魔物なんてどこにもいない。

 この町にいるのは虫ばかりだ。


「それにあの力……どう考えても普通の人間ではないぞ」


 あれぐらいの重さなら、私よりも体がしっかりしているお父様や兄様なら余裕で開けられるだろう。

 まるで私が普通の人間ではないって、嫌になっちゃうわ。

 

「何も答えないつもりか! 今すぐに拘束する!」


 まるで私が犯人だと言わんばかりに、騎士たちは私を囲んでいく。

 なぜ私を捕まえようとしているのだろうか。

 それに、虫に追われていた人々を助けなかったのは、屋敷の人たちだ。

 どうして私が捕まるのよ。おかしいわ。


「はぁー、本当に嫌になるわね」


 虫から逃れる町の人を助けたのに、悪者扱いにされて嫌になる。

 私が大きくため息をつくと、騎士たちはビクッとしていた。

 中にはその場で倒れる人もいる。

 そのまま睨みつけると、騎士たちは少しずつ後退していく。


「そもそも正々堂々と力で勝負することはしないのかしら?」


 一人に対して数十人の騎士で囲んで恥ずかしくないのかしら?

 何も持っていないか弱い女性に対して、剣を持った騎士が迫ってくるなんて考えられない。


「お前ら一斉に行くぞ!」

「「「おう!」」」


 合図と同時に騎士たちは勢いよく走ってきた。

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