第36話 筋肉令嬢、牢屋にいく
「こちらが、神様が強くご所望された“幽閉の間”でございます」
騎士団長が丁寧に案内してくれたのは、いかにも牢屋のような鉄格子の部屋だった。
奥からはうめき声が聞こえている。
ちなみに騎士全員に付いてこられると迷惑だと思い、騎士団長にのみ直接案内をお願いした。
「ブレーメン……?」
鉄格子の奥にいたのは、間違いなく彼だった。
ぼろぼろの姿で床に寝転び、その隣には同じく傷ついたネコとイヌが寄り添っている。
「神様、こちらの方を知っていらっしゃるのですか?」
私が頷くと、騎士団長は少し困ったような顔をしていた。
「こちらはウラギールを裏切った者になります。敵の情報を集めるどころか、あちらの諜報員として戻ってきました」
どうやらウラギールは屋敷に忍び込んだ後に、すぐに捕まったようだ。
たしかに動物使いのウラギールだと、隠れながら家族を助けるには役不足なのかもしれない。
それに敵の諜報員になったとバレて――。
「ってあなた何をしたのよ!」
実はルシアン様に近づき、情報を盗もうとしていたようだ。
ただの動物使いだと思っていたが、とんでもなく危ない人物だった。
まだルシアン様の好きなことや嫌いなことなら、むしろ情報交換をしたいぐらいだ。
だが、場合によってはタダじゃ済まない。
せめて私にその情報を教えてから、ウラギールに帰るなら許してあげよう。
「では神様、どうぞお好きな時にお入りください」
「えっ? あ、うん。入るけど……」
鉄格子が開けられ中に入った。
――バタン
音を立てて閉められる扉。
「え、ちょっと待って?」
「神様が望まれた“幽閉プレイ”……ご満足いただけるよう、我々も最大限の努力をいたします!」
「いや、ただ中にいるブレーメンの様子を確認したかっただけなんだけど!?」
何か勘違いされているような気もするが、まずはブレーメンの状態を確認する方が先だろう。
私はブレーメンに近づくと、鼻元に耳を近づけて胸の動きを確認する。
耳元に微かに息が当たり、胸元が小さく動いている。
どうやら呼吸はしているが、傷の状況から気絶しているのだろう。
イヌやネコもブレーメンと同じような状態だった。
気絶するまで戦った後が感じられた。
私は手に魔力を込めると、ブレーメンの頬に叩きつける。
――パッチイイイイン!
地下に牢屋があるため、治療している音が無駄に響く。
次第に傷が塞がってくると、浅かった呼吸も落ち着いてくる。
ブレーメンだけではなく、ネコやイヌの治療も終わり振り返ると、騎士団長はニヤリと笑っていた。
――ガチャリ!
鍵を閉めた音が牢屋に響く。
騎士団長は牢屋の鍵を閉めていた。
どうやら私は牢屋に閉じ込められたようだ。
私は鉄格子に近づくが、鍵がかけられて抜け出せない。
「ははは、神の力を封じた今、私が一番最強だ!」
まさか私を捕まえるために、今まで演技をしていたとは思いもしなかった。
ちなみに私よりもお父様や兄様の方が強いから、一番最強になるにはまだまだ道のりは遠いだろう。
「これは頑丈にできた鉄格子――」
「……あっ、これ簡単に取れるのね」
扉が開かなかったため、鉄格子を持ち上げてみたら、扉ではなく鉄格子ごと外れてしまった。
騎士団長は顎が外れそうな勢いで、口を開けたまま固まっている。
そのまま持っているのも邪魔だと思い、鉄格子を壁に立てかけた。
「さすが神様!」
騎士団長は手のひらをひっくり返したかのように、拍手をしていた。
その態度の切り替えの早さは、もはや訓練されたものとしか思えない。
さすがウラギールの騎士団長なだけある。
ウラギールはやっぱり裏切りが名前の由来になったに違いない。
「えーっと……とりあえず、あなたはこの中に入ろうかしら?」
「神様、さすがに冗談が……はい。ぜひ、入らせていただきます」
私はブレーメンたちを抱えると、一度牢屋の外に出す。
そのまま鉄格子を持つと、再び地面に突き刺す勢いで鉄格子をはめる。
「ふぅ、これなら外れないわね」
今度はしっかり鉄格子を埋め込んでいるため、びくともしないだろう。
騎士団長はどこか戸惑っているような気がしたが、私が睨みつけるとにこやかに微笑んでいた。
私はブレーメンとイヌを脇に抱えて歩き出す。
ちなみにネコは体が柔らかかったため、首にかけている。
「んっ……」
「大丈夫かしら?」
脇に抱えているブレーメンが目を覚ました。
どこか頬を撫でている気がするが、気のせいだろう。
少しずつ意識が戻ってきて、状況を確認しているようだ。
「そうか……俺は捕まったのか」
「ええ。だから牢屋の鉄格子を外して、出しておきました」
「……」
ブレーメンはチラッと鉄格子を見た後に、私と目が合う。
そして、そのまま頷いて納得していた。
「そういえば、家族はどこに――」
「今すぐに助けないと!」
私の言葉に反応したブレーメンは、抱えている腕から抜け出すとどこかへ走って行った。
ひょっとしたら家族が危険な状態にあっているのだろうか。
私も追いかけようとしたが、反対の腕と首元でゴソゴソとする者がいた。
「あっ、起きた!」
どうやらイヌとネコも目を覚ましたようだ。
『『シヌ……エッ……イキテル?』』
私の顔をジーッと見つめると、目をパチパチとしている。、
『『シヌッ!?』』
急に思い出したかのように勢いよく私の元から離れた。
牢屋から出してあげたし、治療もしたから、少しは気を許してくれると思ったのに……。
結局、イヌとネコはブレーメンと反対の方に走って逃げてしまった。
そんなイヌとネコを私は追いかけることにした。
「結局、何しにここに来たんだっけ?」
筋肉は裏切らないけど、ウラギールは裏切ることを知ったわ。
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