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藍居ビルシステムはD沢区エリアに展開する不動産会社である。

エリア内に主にオフィスビルやマンションを中心とした複数の物件を所有し、管理も行っている。

しかし一部の低層部を除き、そのいずれの物件も公開されておらず、売買も行われていない。


藍居ビルシステムは社長である藍居深海〈あおいふかみ〉とその弟である浅海〈あさみ〉の二人が中心となって経営を行っている。


兄の深海は営業(とはいえ非常に限られた一部の人間を対象としている)等の対外交渉、弟の浅海は主にビルの保守・管理を担っており、会社の保有する非公開物件の一つであるメンテナンス棟で業務を行っている。


藍居浅海の行う保守・管理とは、特殊技能による遠視及び調整である。

「装置」により本体と媒体を繋ぎ、物件の様子を常に監視している。また、物件の存在する範囲のことはある程度「視る」ことができる。


何か問題が発生した場合は対処するわけだが、浅海だけで対処できない場合は外部の技術者や専門家に協力を依頼する。

基本的に浅海はメンテナンス棟の管理室から出ることはできず、「装置」からもなかなか離れることができないため、専属の補佐担当が存在する。


サポートは代々「不自然現象」の対応に長けた夏縋家の人間が受け持っているが、浅海の担当を受け持っていた一番新しい代の夏縋は最近本家から勘当され家を追い出された。

しかし、藍居ビルシステムの業務のその特殊性、及び秘匿性の高さから浅海は変わらずその夏縋を補佐に据えている。

夏縋本家としてもこれは非常に不本意なことなのだが、夏縋の家自体が後継者不足のため、今のところこのことは黙認されているのだった。


また、直近で発生している管理機構のエラー処理業務は夏縋以外には対応ができない種類のものであった。


物件の管理用に浅海が構築した遠隔管理機構は女学生の姿をしていた。物件に異常エラーが発生した場合、それはお知らせプリントの形、また、口頭でその内容を報告してくる。

女学生、欠席したクラスメイトにプリントを届けに来る委員長、その他諸々の詳細な、しかし全くシステムに関係の無い設定を実装したのは完全に浅海の趣味であった。


その遠隔管理機構は藍居ビルシステムの所有管理物件の全てに配備されているのだが、どうやら最近、何らかの原因で勝手に自己複製を始め、所有管理物件以外の建物にまで入り込んでいるようだった。


浅海の部屋には管理外物件の異常エラーを報告し続けてくる「女学生」の訪問が後を絶たない。

浅海にはそれを処理する力がなかったため、その対応は夏縋が行っている。しかし能力以前に

「仮にも女学生の形をしたものをこの世から消すなんて僕にはとてもとてもできないよ。」

などと浅海が嘯いていたのを夏縋は白い目で見ていた。


その点、夏縋は女学生という属性にはなんの思い入れもなく、さらには人の形をしたものを処理することに対しても全く抵抗がなかったので、食卓塩に特殊な術式を組み込み、情報を溶かしこんだ「水」へと分解するという方法を採用した。


分解した情報は無駄にせず遠隔管理機構のデータベースに取り込むためジョウロで「装置」に流し込んでいる。


「女学生」は基本的にシステムを構築した浅海の言うことは聞くのだが、異常個体である複製体に関しては浅海の管理外の存在なので、一度管理者からの承認を与える必要がある。そのためわざわざ「装置」の内側に入れる過程がいるのだった。

また、「装置」から離れることができない浅海のかわりに夏縋が浴室から「水」を汲んでいる。


本当であれば、システム自体のデバッグが必要なのだが、原因がわからない現段階ではこのしちめんどうくさい方法が最も効率的ということになっている。


「なんにせよアレがまた来たときには頼みますよ。」

「毎度ご愛顧感謝でーす。」

「あと、夏縋さんの同居人の彼、あまりいじめすぎないであげてください。こちらの調整が大変なので。」

「あーバレてるか。流石に藍居くんにはなんでもお見通しだなぁ。」

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