魔物根絶計画
ちびまるフォイ
連鎖が絶たれた未来
「お前もうパーティにいなくていいや」
「え……」
「転生したから強いと思ってスカウトしたけど、
てんで活躍できてないじゃん。足手まといなんだよ」
かくして自分は冒険者パーティから追い出された。
その後、自分が抜けたことでやっぱり困ることになり
"アイツは本当はすごかった"という展開もなく。
新天地にいくと自分のすごさを再認識してもらって、
自己承認欲求のいくばくかを満たすことができるというわけでもなく。
「転生したからって、冒険者で成功できるとは限らないのか……」
前世科学者とかいう非戦闘職というのもあり競争からは遠い人生。
そんなやつがこの戦いの世界に身をおいても活躍なんてできなかった。
ダンジョンには魔物が増え続けて、
冒険者ギルドは明かりが耐えることはなかった。
「これからどうしよう……」
冒険者としての生活もできない。
魔物被害が多すぎて、ここじゃ気ままなスローライフなどもってのほか。
悩んでいると村の人達がすがってくる。
「あなた冒険者よね、早くダンジョンの魔物を倒して!」
「いえ……もう引退して……」
「戦えるのならなんでもいいわ。
ダンジョンの魔物がいるせいでもうずっと眠れないの!」
「それは……冒険者の仕事ですし……」
冒険者が依頼を受けてダンジョンで魔物を狩る。
そんなのは火事に対してバケツで水をかけるような対症療法。
討伐される数よりも、魔物が増える数のほうが多いので
結局魔物の被害は増えていくばかり。
このままではーー。
「そうだ。思いついた!! 魔物を根絶やしにする方法が!!」
冒険者としてダンジョンに挑まなくても、魔物を倒す方法はあった。
村に専用の研究施設を作って魔物研究をはじめた。
前世は科学者としてその知識を活かすときだ。
「よし、成功だ! 魔物がオスになっている!」
特定の魔物の遺伝子に魔放射線を放つと、
DNAが組み替えられてオスになることを発見した。
次にダンジョンから大量のゴブリンを取得して
DNAを改ざんしてオスにしてからダンジョンに戻してく。
しだいにダンジョンにはゴブリンのオスばかりになった。
「科学所長、こんなことして意味あるんですか」
助手は不思議そうにしていた。
「すぐに効果は出ない。まあダンジョンの様子を見ているがいい」
「はあ」
ダンジョンの魔物個体数を魔法ウォッチで確認し続けた。
変化は劇的ではなくゆるやか。でもたしかに個体数を減らしていった。
「所長すごいです。ダンジョンのゴブリン個体数がどんどん減っています!」
「作戦成功だな。ゴブリンがオスだらけになれば、
つがいを見つけられないオスはただ死に絶える。
メスを見つけて繁殖できたとしても
改造ゴブリンとの子どもの場合、生まれるのは確実にオスだ」
「そうすれば確実にゴブリンの個体数は減っていきますね」
「そうとも。冒険者が剣を振り回して倒す必要なんて無い。
奴らが必死に草刈りをしている間に、我々は除草剤を撒いたというわけだ」
こと村に被害を与えていたゴブリン個体数の激減。
人々から感謝されると思っていたが、待っていたのは冒険者からの反対だった。
「てめぇ! なんてことしやがる!」
「ダンジョンにゴブリンが消えちまった!」
「これじゃレベル上げられないだろ!!」
研究所の周囲を冒険者が取り囲んでいた。
「しょ、所長! お茶飲んでる場合じゃないですよ!」
「外の話か?」
「そうです! ゴブリンを減らしたのに、
冒険者が文句を言ってきてるんです!」
「やつらは手軽なゴブリン退治という仕事を追われたから、
そのやつあたりで我々の研究所にきているに過ぎん」
「でもどうするんです? 多少は説明したほうが良いのでは?」
「不要だ。どうせ我々の研究がさらにダンジョンに浸透すれば
やがて冒険者などという狩猟民族のスタイルは駆逐される。
再就職探しは早いほうが彼らにとっても良いだろう」
「冒険者はレベル上げられないと言ってますが……」
「ほっとけ」
冒険者の苦情には耳もかさずに研究は続けられた。
ダンジョン内における食物連鎖の底辺であるゴブリンの減少。
それを捕食していた魔物も食料難で個体数を減らすだろう。
それが何度も連鎖し続けていけば、
ダンジョンから魔物がすべて死滅する日も近い。
「脳筋の冒険者どもにかまけている時間はない。
我々は1日でもはやくゴブリンを絶滅させる必要がある」
「は、はい!!」
なおも研究は進められていった。
ゴブリンのオス化計画は着実に進められた。
ついにその日は訪れた。
「所長! 見てください!」
「こ、これは……!」
「やりましたね所長! ゴブリンがついに絶滅しました!」
「ああ、やったな。ここまで長かった」
「これでダンジョンの食物連鎖は崩壊しますね」
「そうとも。やがてすべての魔物が飢え絶えるだろう。
この村もすべて平和になるぞ!」
「冒険者に耳を貸さずに研究続けてよかったです!」
「我々の研究が感謝される日も近いぞ!!」
助手と手を取り合って勝利のマイムマイムを踊った。
「ところで所長。なんかこの部屋……熱くないです?」
「おかしいな。冷房魔法はかけているのに……」
原因は内側ではなく外にあった。
研究所の外を見てみると、あたり一面が火の海になっている。
「しょ、所長たいへんです!! 外が!!」
「どうなってる!?」
あわてて外に出るとそこはすでに地獄絵図だった。
村は炎で焼き払われ、あらゆる人工物は壊されている。
その主犯は隠れる様子もなく、堂々と姿を見せていた。
「ど、ドラゴンだ……! 頂点捕食者のドラゴンがどうしてここに……!?」
ダンジョンの奥深くに眠る頂点捕食者。
そんなのがわざわざダンジョンの外にまで出張ってくるなんて考えられない。
考えられるとすれば。
「しょ……所長、まさかドラゴンは……。
ダンジョンの餌がなくなって、人里までやってきたんじゃ……」
ゴブリンが絶滅したダンジョン。
そのゴブリンを捕食していた魔物も死んでいく。
さらにその魔物を捕食していた魔物も……。
脈々と続く食糧難の影響は頂点捕食者のドラゴンにも及んだ。
そして今。
ついに腹をすかせたドラゴンは村の人間に襲いかかることとなった。
「うああーー! しょ、所長ーー!!」
「助手ーー!!」
助手はドラゴンの爪に引っ張り上げられ、
あえなくその口にスナック感覚で放り込まれてしまった。
そんなものでお腹を満たせるわけもなく、
ドラゴンの鋭い眼光が自分の身体へと注がれる。
「ひいっ……!!」
魔物を絶滅させるはずが、眠れる獅子を起こす結果になろうとは。
今さら後悔してもすでに遅い。
「冒険者! 冒険者は何をしている!!
今こそお前らの仕事だろう!! 早くドラゴンを倒せーー!!」
答える冒険者は誰もいなかった。
ゴブリンの全滅によりレベル上げができなくなっていた冒険者。
そんなザコ冒険者がどもがいくら束になってもドラゴンに勝てっこない。
ゴブリンの品種改良はダンジョンの生態系破壊だけでなく、
冒険者の成長の道すらも破壊してしまっていた。
「あ……ああ……」
ドラゴンと目が合う。
「私は……ただ魔物がいない平和な世界を作りたかっただけなのに……」
その言葉を最後にドラゴンの口に放り込まれた。
魔物根絶計画 ちびまるフォイ @firestorage
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