美しさの中の闇


 とりあえず空腹だった私は、オーダーするとドローンが食べ物を持って来てくれると言うデリバリーサービスを頼んだ。私の時代で言うと、Ubereatsみたいな感じのやつ。私はホットドックを頼み、エースはピザを1ホール頼んだ。シノさんとルキは何も要らないと、頼まなかった。

「美味しい〜」

ここに来てから何も食べてなかったから、このホットドッグが最高に美味しく感じる。

「良かった、まだ足りなかったらもっと頼んで良いからね?」

ルキは微笑んだ。あっという間にホットドッグを食べ終わると、急に睡魔が襲って来た。

「寝るか?部屋に案内する」

シノさんに連れられ、私が案内されたのは、1番ビューの良い2階の角部屋。部屋からは2ndの景色が一望できた。

―ずっと眺めてられるな、この景色。

「じゃあゆっくりしてて良いからね?」

シノさんが出てった後、私はベッドで横になった。

―意外とシノさん、優しくて柔らかい人なのかも。

そして、私は目を閉じた。



「ルキ、俺たちに何か嘘吐いてるだろ?」

「バレたか…」

俺とシノは、エースが部屋に戻った後、リビングで寛いでいた。

「本当は沙羅、地区出身でもないし、ましてや家出少女でもない」

「どう言う事だ?」

「沙羅ね、タイムトラベラーらしいよ」

「はっ?」

シノはコーヒーを飲もうとしていた右手を止めて、僕の顔をまじまじと見た。

「お前、この話の最中でふざけるなよ」

「ふざけてなんかないよ。沙羅本人がそう言ったんだ」

「ルキは彼女の言葉信じるのか?」

「うーん、確かに沙羅は何か事情を抱えてるのは事実だし、僕がそれを後々確認しないといけないんだけどね、、沙羅が2ndでZと居てさ、何事かと思ったら、沙羅面白いこと言ったんだよ?」

「なんて言ったんだ?」

「自分のこと東京出身って」

「はぁ…」

「エースと同じぐらいの歳の女の子が、自分の出身地を東京っていうなんて珍しかったし、このままほっといたらネオでも流石に危ないでしょ?」

「それで声かけたのか」

「そゆこと!」

「まぁ俺は沙羅ちゃんをここに置いてやっても、別に構わないよ」

「シノが言うなんて、珍し」

シノは何だか、薄く笑みを浮かべていた。シノが微笑んだのはいつぶりだろうと考えてみて、俺は少し懐かしくなった。

「沙羅ちゃんのことはどうするんだ?これから」

「日比野さんと宇佐美さんのとこのご長男は、沙羅のこと知ってて今頃もう調べ始めてるだろうし、シノにもあの2人に口止めして欲しいんだ。お父さんの耳に入ったら、めんどくさいでしょ?議会の話題にもなったら大変だしね笑」

「そうだな、日比野と宇佐美は僕の方から伝えとくよ」 

「流石、シノ!頼んだよ」

僕はコーヒーを飲みながら、沙羅を思い出した。最初はカフェで話して、すぐ別れようと思っていた。だけど、何故か放っておけなくて、彼女とはどこかで会った気がするのは気のせいだろうか。

「驚いたよ、ルキが女の子を家に入れさせたの」

「笑笑」

僕はコーヒーを飲みながら、深く息をついた。

「何だか黒部家に、小さな嵐の到来だね」

「そうだな」

僕とシノは互いに笑みを溢しながら、コーヒーを飲み干した。



私は何かの物音で眼を覚ました。

「何の音?」

―何か水の様な音が聞こえる。

私は部屋のドアを開け、音のするリビングに向かった。リビングは灯りが付いていて、エースくんが中央のプールで泳いでいた。

「あれ?沙羅ちゃん!どうしたの?」

エースくんは私に気がつくと、泳ぎながら私に近づいてきた。

「音がしたから」

「えっ起こしちゃった?ごめんね」

「ううん大丈夫だよ、十分寝れたから」

「良かった!」

それから私はリビングを散策した。中央にはプールがあり、左側にテーブルと簡易椅子、あとコーラしかない自販機などがある。そして絵に描いたような綺麗な夜景が一望できる大きな窓が、この部屋の主人公のような存在感を放っている。奥にある階段で2階へ上がると、ソファーなどの家具達に、外へと出れる広いベランダがある。私はベランダに出て、側にあった椅子に座った。

―そう言えば今何時かも分からないな。

私は外の景色を見ながら、しばらくぼぉーとしていた。「冷た!!」

突然左の頬が冷たく感じ、飛び跳ねてしまった。

「凄い驚かしちゃった、ごめんごめん笑笑はい、一緒に飲もうよ」

エースくんが私に一つコーラを差し出したので、有り難く受け取り一口飲んだ。

「沙羅ちゃんって地区出身じゃないんでしょ?」

「えっ!?どうして…」

「どうしてって、沙羅ちゃんが寝た後にルキが教えてくれたから。家族で隠し事はNGだからね」

「そっか…」

「そんなに落ち込まないで!僕も沙羅ちゃんの事、大歓迎だから!シノも無愛想だけど、根は優しくて良い人だし!」

エースくんはニコッと笑い、コーラを飲み干した。

「今何時?」

「今は夜の21時だよ」

「寝なくて良いの?」

「今はテスト後で休み期間なんだ!だから、もう少し起きてるかな〜」

―この時代でも、テストはあるんだ…って当たり前か。

「沙羅ちゃんっていくつ?」

「私は16」

「えっ!?同じ年だ!!」

「やっぱり!」

「じゃあタメな、沙羅!」

―何か未来の同じ年の子と話してるなんて、不思議だな。

「あの1つ質問しても良い?」

私は残ってたコーラを飲み干した。

「うん」

「地区って何?」

エースは少し躊躇ってから、全て話してくれた。エースが言うには、地区は貧しい世帯が暮らすエリアだそう。Neon tokyo郡に住むには限られた人しか、住めないのだと言う。

「丁度20年前ぐらいから貧富の差が激しくなって、Neon tokyo郡に住むネオ民と、地区に住む人たちの間で反乱が起きたりする様になったんだよ」

「そうなんだ…」

「ちなみに…」

エースはそう言って、外の右側を指差した。

「地区エリアから出るには年収が2000万円以上じゃないといけない決まりなんだ」

「えっ!?」

「おかしいよね、そんな制度。今の政治はおかしいよ、よく今も成り立ってるよねって話」

私の時代は確かに貧しい世帯もいたけど、この時代みたくそんなに格差は目立っていなかった。

私は少しNeon tokyo郡の美しさの裏に隠れる、闇を見た気がした。

「まぁ沙羅は気にしなくて良いよ!そんなことより!明日、僕たちと一緒に出かけない?」

「出かける?」

突然の誘いに少し戸惑った。

―ルキもエースも突然過ぎる…

「うん!明日ちょっと会いに行かないといけない人が居てさ、多分ルキも一緒に行くと思うけど…」

「私が一緒に行っても良いの?」

「勿論!!きっとあいつも喜ぶwww」

「じゃあ、行く」

「じゃあ!決まりだね!!」

それからエースと1時間ぐらい話して、もう夜遅いとなって解散した。私は部屋に戻り、ベッドに潜った。

「Neon tokyo郡か…何だか凄い刺激的な街だな」

さっきの話を聞いて少し不安を感じたけど、やっぱりNeon tokyo郡は美しくて、魅力的な街だ。私はワクワクした気分で、2度目の深い眠りについた。



 聴衆会が終わり俺は一通り資料をもう一度目に通した後、部屋を後にした。俺は今日会った少女が忘れられずにいる。一度署に連れてって事情を聞こうとしたのだが、黒部郡長のご長男が偶然通りかかり、お別れとなった。ご長男だからと躊躇わずきちんと少しだけでも話を聞けば良かったと、少し後悔している。息子と同じ歳ぐらいに見えたが、自分の出身を東京という者は年々少なくなっている。俺が幼い頃は出身地を東京と言っている者は少なくなかったが、もう今となっては俺の同僚でさえ、東京という者は多くない。あとは彼女が身に纏っていたセーラー服…

「にしても、あの少女は一体ご長男とどの様な関係なんだ?」

「どうしたんですか?日比野署長」

「いや、今日会った少女が忘れられなくてな」

「えっ?それは、、恋愛的にですか?」

「違う!ごく一般的にだ!」

「はぁ…」

俺の隣いる奴は宇佐美トオルと言い、僅か3年で副署長に登り詰めた実力を保つ。端正な顔立ちで裕福な家柄出身の彼だが、性格は…少し残念だ。

―我ながら、翔に限らず3人とも良い子に育ったと思う。

「でも妹だからってちゃん付けはよっぽどのシスコンですね、あれは」

「えっ?」

「いや、普通は妹にちゃん付けなんてしませんって!子供ならともかく、、それにあの2人顔似てませんでしたよね?2人とも綺麗な顔してたけど。まだあの少女と黒部長官の方が、兄妹と言われても僕信じますよ」

―まぁ、たしかにな

「僕もあの少女に関しては、かなり気になってるんですよ。見ました!?彼女セーラー服着てましたよ?」

「あぁ見ないわけないだろ、、今どき珍しい」

「今どきどころじゃないですよ!署長!60年も前の服を着てたんですよ?この辺りのヴィンテージショップにも販売されてませんって、、しかも東京出身って言ってたし、挙動不審だったし、、もしかして…」

宇佐美は小声で、ありえない言葉を口にした。

「そんな訳ないだろ」

「いえ、冗談ですって!」

「でも少し、調べてみるか」

「調べる価値は充分かと」

俺が学生の頃歴史の授業でよく目にしていたセーラー服を着て、ビー玉の様なキラキラした眼を私に向けていた。まるで何処か知らない場所に来た子猫が、新しい飼い主を探している様だった。

「あの少女のことは、一回黒部郡長に話しておく」

「了解でーす」

俺はまるで玉手箱を開けている様で、少しワクワクしていた。

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