テスト期間。
茉耶side
六月も中旬。
空の色が変わった。
窓を打つ雨音が、朝からずっと途切れない。
キャンパスの中庭を、行き交う学生たちが
傘を広げて通りすぎていく。
私は、建物の軒下でしばらく雨を見ていた。
「……あ」
ふと、視界の隅に見慣れた後ろ姿を見つける。
背が高くて、少し猫背で、
でも歩き方はどこか丁寧。
李玖だ。
「李玖!」
声をかけた瞬間、彼が振り返る。
驚いたように目を丸くして、少しだけ笑った。
「傘、持ってないの?」
そう尋ねると、
李玖は頭をかくようにして言った。
「朝は降ってなかったから、油断した。」
「じゃあ……入る?」
自分の傘を少し傾けて、李玖の方へ差し出す。
一瞬、迷ったような表情をしたあと、
彼が無言で傘の中に入ってくる。
「……ありがと。」
「いいよ、次3号館、でしょ?」
李玖は苦笑いしながら頷く。
「なんで分かるんだよ」
「流石に、これだけ毎日会うと、ね?」
並んで歩き出すと、傘の下は少し狭くて、
肩が触れそうになる。
雨の匂いと、静かな空気。
茉耶は、ふと口を開いた。
「この時期、苦手なんだよね。
空もどんよりしてて。」
「うん。でも……今日は、悪くないかも。」
その言葉に、思わず顔を向けると、
李玖は前を向いたまま、小さく笑っていた。
傘の下で響く雨音が、心地よくて、
言葉じゃなくても、
伝わるものがある気がした。
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