李玖 side
試験前___
最近、図書館のこの席に座ると、
自然と隣に茉耶がいる。
待ち合わせたわけじゃない。
でも、何度も偶然が重なるうちに、
気づけば“そういう流れ”になっていた。
同じ学部じゃないから、
教科書の内容もまるで違う。
でも、ページをめくる音や、ペンが走る音――
そんな静かな気配の中に、
どこか安心できるものがあった。
「今日もここなんだ」
そう言って、当たり前みたいに
席に荷物を置いてくる茉耶。
「たまたまだし」って笑ってるけど、
本音はいつものこの席で待っていた。
「……はあ」
少しして、隣から、
控えめなため息が聞こえた。
ちらっと視線を向けると、
茉耶が問題集を開いたまま、
ペンを唇にあてている。
「どうした」
声をひそめて聞くと、
茉耶は小さく首を傾けて、
「この文章、意味わかんなくなってきた」
って、困ったように笑った。
「さっきからずっと文学の世界にいるから、
現実に戻れないのかも」
「もはや勉強してないじゃん」
「してるもん、ちゃんと!
……ちょっと詩的なだけ」
思わず吹き出しそうになるのをこらえた。
茉耶は笑って、またページに目を戻す。
でもその顔は、
さっきより少しリラックスしてる気がした。
──その横顔を見ながら、
こんなふうに、ただ隣にいて
ときどき言葉を交わすだけで、空気がやわらぐ。
無理に話す必要もない。
お互いのペースで勉強して、
気が向いたら何気ない会話を交わして。
それが、今のふたりの距離感だった。
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