茉耶 side
歩きながら、
心臓が少し速くなるのを感じていた。
声をかけるか迷ったのは、ほんの数秒。
でも、それはきっと――小さな覚悟だった。
「偶然。次、どこ?」
なるべく自然に、何もなかったように。
そう見せたかった。
李玖は少し驚いた顔をしていた。
でも、すぐに普通の顔に戻って、
教室の名前を答えてくれた。
よかった、返してくれた。
少しだけ安心して、横に並んだ。
──未読のままのLINE。
きっと見てる。でも、返してくれなかった。
何があったんだろう。
なにかしたかな。
聞きたいことは、いくつもあった。
でも、怖くて聞けなかった。
だから、せめて。
こうして、いつも通りに話しかけてみた。
もしかしたら、笑ってくれるかもしれない。
少しだけ、前みたいに戻れるかもしれない。
そんな小さな期待を、
ポケットの中で握りしめながら。
「何でもないふり」をするしかなかった。
隣にいるのに、遠く感じる。
声は届いているのに、
心はまだ、触れられない。
それでも。
今日、久しぶりに李玖に会えて、
隣を歩けたことが、嬉しかった。
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