李玖 side
昼過ぎ、
休憩がてらカフェでスマホを開いた瞬間、
“新曲リリース”の通知が目に入った。
茉耶のMY名前。
その曲を、自然と再生していた。
──最初の一音で、空気が変わった。
心に、すっと染み込むような声。
「……やっぱ、いい声してんな」
冗談みたいに言ってみたけど、
誰に言うわけでもない。
曲が進むにつれて、
歌詞のひとつひとつがやけに刺さってくる。
“君が他の誰かに笑ってるの見て
ちょっとだけ胸が苦しくなるんだ”
“本当は知りたい
あのとき君が何を思ってたのか”
なんなんだよ、これ。
まるで、俺の気持ちを読み取ったみたいな。
歌詞の“君”が、自分だったら。
そんなことを思ってる時点で、もうバカみたいだ。
気づけばLINEを開いてた。
《李玖》
「新曲、聴いた。」
それだけじゃ足りなくて、もう一通。
「あの曲、恋愛ソングだよな」
「もしかして…実体験だったりする?」
……送ってから、少し後悔した。
どういう返事が欲しかったんだろう。
「そうだよ」って言われたら、
きっと胸がチクリとするくせに。
「違うよ」って言われたら、
どこかほっとしてしまうかもしれない。
結局、自分は何がしたいんだ。
少しして、茉耶からの返信が届いた。
《茉耶》
「だったらどうするの?」
そんなふうに返ってくるとは思ってなかった。
いつも通り、ちょっとふざけたような、
でもどこか距離を保ったやりとり。
……でも、それが茉耶らしい。
《李玖》
「……ちょっと気になるってだけ」
本当は、“全部が気になる”って打ちかけて消した。
“誰のことを思って歌ったのか”
“その人を、今も想ってるのか”
“俺にその気持ちを向けてくれる日がくるのか”
……そんなこと、聞けるはずもない。
しばらくして、茉耶からもう一通。
《茉耶》
「李玖に聴いてもらえて、よかった」
その一言だけで、
胸の奥がじわっとあたたかくなる。
嬉しいはずなのに、なんだろう。
言葉にならないもどかしさが残った。
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